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装具×理学療法士で歩行を再構築する(後編)

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リハビリテーション

装具×理学療法士で歩行を再構築する(後編)

装具×理学療法士で歩行を再構築する

千里リハビリテーション病院
理学療法士 増田知子

2026-01-05

はじめに

千里リハビリテーション病院の増田です。【装具×理学療法士で歩行を再構築する~脳卒中者の装具療法における実践知~】というテーマでお話しします。理学療法士の臨床における判断や選択において非常に重要な、この「実践知」という概念について、事例を踏まえてお話しすることで、明日からの臨床に役立てていただければと思います。

「装具×理学療法士で歩行を再構築する(前編)」2025. 12月1日号

症例を交えた解説① 長下肢装具の活用

後方介助歩行について
 
股関節の屈曲-伸展を重視した「後方介助歩行」


我々の病院では、目的にかなう継手を選択した長下肢装具を使用して、股関節の屈曲―伸展を重視した後方介助歩行を積極的に行って、健常歩行のアライメントを再現しています。
 

後方介助歩行を積極的に行う3つの理由
  • 立脚期の倒立振子形成のため
  • 自動的・自律的な歩行パターンを生成する脊髄CPGの活動をできるだけ利用するため
  • ロッカーファンクションを利用して推進するため

そこで、長下肢装具にゲイトソリューション足継手を付け、股関節の屈曲と伸展を交互に大きく引き出すよう意識しながら後方介助するのが、歩行の再構築に有効だという結論に至って実践しています。


 

長下肢装具と短下肢装具の使い分けの考え方

重要なのは「とりあえず、長下肢装具を着けて後方介助歩行」とならないことです。常に長下肢装具と短下肢装具の使い分け、適合を意識してください。
 
長下肢装具
・装着した状態での歩行獲得が目標となるケースはまれ
・主に、急性期~回復期における継続使用による治療効果を期待して用いられる
・ただし、使用効果のエビデンスは短下肢装具と比較して不十分
 
短下肢装具
・装着による即時効果が明らかな部分もあり、生活用装具としても有効
・関節運動への影響を参照することで、治療効果を得るように使用できる可能性も考えられる。
 
装具をつけた状態がスタンダードになり、装具がない状況を確認する機会が減る場合が多いです。装具の長期使用で廃用的変化が起こるという報告も散見されますので、無装具状態での歩行評価や装具の種類変更の検討など、確認を適宜行うことが重要です。


 

長下肢装具活用のチェックポイント
 
1.装着時のアライメント

長下肢装具であれば何をどう使っても同じ結果が出るわけではありません。長下肢装具の使用目的を意識した課題を設定すると、備品の装具とオーダーメイド品の適合の違いによる支持性やアライメントの結果を確認できるでしょう。オーダーメイド装具のメリットを最大限に引き出す介助を行うのが、PTの役割です。義肢装具士さんをはじめとした関連職種と情報共有して、装具療法を工夫して進めていきましょう。

 

 
2.歩行相ごとのアライメント

介助歩行を行う際は全足底接地するタイミングで、股関節、膝関節、足関節が床面に対して垂線上に並ぶイメージで介助できると、倒立振子がしっかり形成されます。長下肢装具の効果を最大限に活用するためには、アライメントや支持のタイミングがずれていないかどうかを、随時確認する必要があります。

 
また、骨盤が外側に大きく動揺しないために、後ろから前腕で骨盤の外側を固定して動きを制御する、股関節が伸展しても体幹を後傾させずに直立を保持する、遊脚への転換のタイミングで下肢をあまり強く引き上げすぎないなど、介助時はPTが細かく配慮してください。
 
しかし、実際に後方から歩行介助しながら、患者さんのアライメントを客観的に見るのは難しいものです。横についた他スタッフからのフィードバックを受けるなど工夫をしてみてください。

 

 
3.介助習熟度


適宜フィードバックを受けて、修正する経験を積み重ねて、PTが介助の習熟度を上げていくことも、装具療法の効果を高めるために重要です。
 
オーダーメイド装具を装着した脳卒中者の歩行介助をゲイトジャッジで波形確認したものについて、介助に習熟したPTと未熟者のPTで比較します。習熟者の場合は、股関節角度の振幅が伸展方向で大きく出せており、TLA(トレイリング・リム・アングル)が増大して、歩行の前方推進に有利だと推測できます。対して、未熟なPTが実施した方は股関節角度の振幅が小さくTLAが減少しており、十分には推進しないと推測されます。
 
このように同じ患者さんでも介助するPTによって、装具療法の質に違いが出る場合があることを強く意識し、適宜モニタリングを行い、介助方法の改善点を見つけることが大切です。

 

 
4.装具の適合度


オーダーメイド装具の方と、備品装具の方とで、PTが歩行介助した場合のゲイトジャッジシステムの波形を比較します。オーダーメイド装具の方の場合、底屈トルクのピークがかなり明瞭で、ヒールロッカーが生じやすく、踵からしっかり接地できていると推測できます。対して、備品装具の場合は底屈トルクのピークが非常に不明瞭で、足全体で接地するような歩容で、前方推進には不利だと考えられます。


 

初期接地時アライメント修正の重要性


オーダーメイド装具を用いていても、初期接地の際に股関節が外旋すると、背屈方向に向かいにくくなります。前方に十分推進できず、骨盤帯が外側に大きく動揺したり、足関節が十分に背屈しなかったりする可能性が高くなります。適合の良い長下肢装具でも、接地時の股関節外旋を装具だけで抑えるのは困難なので、そのような場合には必ずPTが適切な介助を加える必要があります。

 

介助ループを用いた歩行介助について
 
介助ループ操作の注意点


装具に「介助ループ」を付けると介助時に非常に有用です。遊脚の下肢を前方に引っ張るためではなく、股関節が外旋したり内転接地になったりする方の接地時のアライメントを整えるために、義肢装具士さんに装具に取り付けてもらい、当院では歩行介助に使うようになりました。遊脚期にクリアランスを確保するのにも役立ちます。ただ、膝が伸展しているとクリアランスが取りにくくなり、下肢を無理に引っ張り上げることになりやすいので、アライメントが崩れないよう注意が必要です。
 
介助ループを使用した方が、踵からしっかり接地でき、股関節、足関節の角度も十分引き出した歩行パターンで介助歩行を行うことができています。

3.カットダウン戦略と評価視点

カットダウンを検討する際のチェック項目
  • KAFO → semi KAFO のカットダウン
    ✔MSt中盤までに股関節が中間位まで伸展しているか
    ✔MSt後半以降で股関節が伸展位となり前型歩行ができているか
  • semi KAFO  → AFO のカットダウン
    KAFO → semi KAFO でのチェック項目に加え
    ✔明らかな膝関節のコントロール不足がないか
    ✔足関節が(可動域に対して)十分底背屈しているか
EMG波形は相対的指標としては活用可能か


長下肢装具の使用の先にはカットダウンを検討するケースが多いかと思いますが、カットダウンについては、まだ客観的な判断指標が確立できていません。EMG波形を参照しているという報告を見ることもありますが、その1人の患者さんの中での相対的指標としては活用可能だとしても、まだそれだけを基準にカットダウンの判断を行うのは少し危険な側面があると考えます。

 
カットダウン日数のイメージ

当院ではKAFO使用期間の平均は86.0プラスマイナス41.4日で、中央値が93日です。AFOとT字杖での歩行に至るまでにおおむね3か月ぐらいというイメージになります。


 
カットダウンー併用期間の設定

また、KAFOからsemiKAFOまで20日ほど着け外しする併用期間を設け、semiKAFOからAFOまでにも11日間の併用期間を設けた例もあります。変化がなるべく急激にならないよう工夫しています。

4.症例を交えた解説② 短下肢装具と歩行自立の実際

膝関節のコントロール
短下肢装具へのカットダウンが無事に行えた場合、臨床では
・膝伸展スラスト
・歩行周期全体に渡る膝屈曲の維持
・立脚期の過剰な膝屈曲
の3つが膝関節に関わる異常な歩行パターンとして問題になることが多いかと思います。


 
短下肢装具適応の検討―関節変形を予防するために

ただ、特に膝伸展スラストを呈する方の場合は、生活期に移行した後に膝のロッキングを長年繰り返し、深刻な変形につながる方が少なくないようです。特にこの方は回復期病院を退院して10年ほど経過した方で、退院時はオルトップで歩行できるぐらいだったのが、このような深刻な関節の変形をきたしてしまいました。
 
特に回復期に携わるPTは、今現在の最大限に高まっている能力に適合する装具という視点だけではなく、退院後に医療従事者の介入が少なくなり歩行する環境が大きく変わっても、本当にこの装具でこの歩容が維持できるのかを考え、どういう装具を使うか判断していってほしいと強く思います。


 
その他、短下肢装具での症例

また、運動麻痺だけではなく運動失調が併存する方も少なくありません。随意性が高くても、戦略的に長下肢装具を使うケースもあります。

 

その他、装具だけでは対応できない遊脚期の問題について無装具での練習を追加したり、膝伸展スラストの患者さんに対して短下肢装具を装着して傾斜路を歩きトレーニングの負荷にしたりすることもあります。
 
あるいは、歩行速度向上のため裸足でのトレーニングを追加したり、前足部にしっかり荷重してつま先から踵にかけて順に接地する練習を行ったりして、歩行速度の向上に結びついたという例もあります。
 
短下肢装具の場合は、長下肢装具の時のようにPTの直接的な介助がない中、どういう環境で行うか、どういう課題を取り入れるかという工夫が必要になってきます。

5.まとめ PTに求められる装具のための視点

まとめ
  • 適切なタイミングでのPTの臨床判断と装具の位置づけの理解が重要
    長/短下肢装具の使用意義、適切な使用時期・期間をよく理解する
  • 装具の選定に必要な「観察」「評価」「予測」の能力を磨く
  • 後方介助歩行には背景となる理論がいくつかあり、それを実現できる技術を身に付けることが必要
  • 装具の適合度は歩行パターンに影響を及ぼす可能性が高く、適合の良好な装具を準備することもセラピストの役割の1つ
  • 介助歩行のみで終わらせないためのトレーニング戦略が鍵
    知識だけでは歩行を再構築できない装具を武器にして、行動と実践知を重ねることが重要


装具療法における「実践知」は、適切なタイミングでのPTの臨床判断と装具の位置づけの理解が非常に重要です。また、装具選定時にはよく観察して予測の能力を磨くことが不可欠です。
 
後方介助歩行には、背景となる理論がいくつかありますが、その理論をただ理解するだけではなく、実現できる技術を身につけることが「実践知」に近づくために重要です。
 
装具の適合度も、歩行パターンに影響を及ぼす可能性が非常に高いので、適合の良好な装具を準備することもセラピストの役割の1つだという認識が必要です。
 
装具を着けて漫然と介助歩行するのが装具療法ではありません。どのように展開するかというトレーニング戦略が脳卒中者の装具療法では大きな鍵になります。知識だけでは歩行の再構築はできません。装具を武器にして行動と実践知を重ねることを、我々PTは常に自らに課していかなければなりません。本日は、ご清聴ありがとうございました。

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