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「動ける喜びを取り戻す」モジュラーフレームコルセットが変える圧迫骨折治療
装具

JA三重厚生連 三重北医療センター 菰野厚生病院
整形外科医師 加藤弘明
理学療法士 保田智子
作業療法士 岡安真吾
2025-07-01
高齢者に多くみられる圧迫骨折(脊椎椎体骨折)[資料1]。その治療において、これまでの安静臥床とダーメンコルセットを使った管理では限界がある──そう感じていた三重北医療センター 菰野厚生病院の加藤弘明医師が、モジュラーフレームコルセットを現場に導入したことで、圧迫骨折の治療現場に大きな変化が生まれました。同病院の理学療法士の保田さん、作業療法士の岡安さんとともに、モジュラーフレームコルセットを定着させ使いこなすチーム医療がどのように確立していったのか。現場のリアルな声をインタビュー形式でお届けします。

[資料1]
導入の背景と最初の効果
「モジュラーフレームコルセットを圧迫骨折の治療に使用して効果を上げておられますが、導入から定着するまでの経緯やご苦労、周囲の反応などを本日はお伺いさせていただきたく思います。まずは、モジュラーフレームコルセットを導入しようと思われたきっかけを教えていただけますか?」
加藤医師:以前に勤めていた救急病院では圧迫骨折した人に入院してもらう余力がなく、ダーメンコルセットの採型をして通院で治療していましたが、当時はそれが普通だと考えていました。その後、地域に密着した病院に勤めてからは、圧迫骨折の患者さんの入院受け入れができるようになりましたが、治療は7~14日間ベッド上安静の後にダーメンコルセットで固定というやり方でした[資料2]。体を起こすと痛がる患者さんも多く、体を起こせずに弱って肺炎や膀胱炎になり亡くなってしまう方もおられて、圧迫骨折の治療成績って良くないなという印象を持っていました。

[資料2]
そこである日、固定する硬性装具について義肢装具業者の方に相談した際に、既製品で良いものがあると紹介いただいたのが「モジュラーフレームコルセット」でした[資料3]。ちょうど胸椎を圧迫骨折し、ギャッチアップ30度で悲鳴が上がるほど痛みが強く全く起き上がれなかった職員がいたので、1例目として試してみたところ、なんと着けた途端に体を起こせたので本人も周りも驚きました。それが装具できちんと固定したら骨折の急性期でも痛みを抑えて起きられるんだと、装具への信頼感が芽生えた瞬間でした。

[資料3]
そして2015年から、圧迫骨折患者さんへのモジュラーフレームコルセットの症例数を増やそうと、保田さんたちに話をして、早期からモジュラーフレームコルセットで固定をして起きれる人を起こすという治療を始めました。
「固定力の強いモジュラーフレームコルセットを知るまで治療にダーメンコルセットを使われていたそうですが、今でも圧迫骨折の治療でダーメンコルセットを使われている病院は多いのでしょうか?」
加藤医師:最近は硬性装具を導入する病院が増えてきているものの、まだダーメンコルセットを使うところが主流だと思います。サイズ調整ができないモールド型の装具を使って、きちんと適合して装着できずに固定力が弱くなってしまうパターンも少なくない印象です。ダーメンコルセットと硬性装具であまり治療成績が変わらないという論文も出ていますが、きっちり適合したら結果も変わるのではと思います。
現場の挑戦と定着への道のり
「圧迫骨折の入院患者さんの治療方法を変える、積極的にモジュラーフレームコルセットを装着して早期に起こしていこうという方針を出された後、新たなやり方に対する患者さんへの説明や医療スタッフの協力を得るのにご苦労はありましたか?」
加藤医師:実はモジュラーフレームコルセットの2例目はうまくいかなかったんです。認知症の圧迫骨折の患者さんだったのですが、見慣れないごつい装具を着けるのを嫌がられて、スタッフも本人が痛がるので寝ている時は外してもいいですかと聞いてくるなど、うまく使えませんでした。
適合をチェックして正しく装着し続けるのは難しい面があると感じて、何度も保田さんらスタッフに相談しました。当時は理学療法士が硬性装具を調整して適合を見ることはあまりなかったので、義肢装具士に適合のコツを聞きながら進めるようにお願いしました。
「保田先生は、加藤先生からモジュラーフレームコルセットを積極的に活用するよう依頼を受けた当時は、どのように感じられましたか?」
保田PT:ダーメンコルセットができるまで待つ2週間は無駄じゃないかと個人的には思っていたので、モジュラーフレームコルセットなら、自分たちですぐに装着できるのがよいと思いました。自分たちで管理できると加藤先生にお願いにあがって、モジュラーフレームコルセットの在庫を持たせてもらいました。
当時は、モジュラーフレームコルセットの部品が入った段ボールごと納品してもらい、オーダーが入ると自分たちで必要な部品を取り出して、1から組み立てて患者さんに装着し、修正を行いました。そして義肢装具士さんが来られたら、状態をチェックしてもらっていました。ただ1から部品を出して組み立てるのが大変だったので、仮組みして用意しておくなど、現場での運用を改善して浸透させていきました。
「効果的な治療を進めるためには、患者さんから装着時の痛みの訴えがあった際の対応など、ナースをはじめとしたチームでの意識共有が必要だと思いますが、そのあたりのご苦労はありましたか?」
保田PT:導入当初は、患者さんのためにきちんと装具を着けて早期離床を目指すという認識が徹底していませんでした。人手が少ない夜間に起き上がられると大変だから、患者さんが痛がっているからといった理由でナースが装具を外してしまうこともあり、以前のやり方に慣れていたベテランの方ほど徹底が難しいということも実際にありました。
加藤医師:当時は、圧迫骨折はとりあえず入院して、数週間は安静に寝かせておくというのが地域のスタンダードで、入院当初は手がかからないという印象があった患者さんに急に装具を着けて早期に起こそうとやりだしたので、そのギャップに反発が生じてしまったこともあったかと思います。
「認識のギャップを埋めていくために、計画的に行動を起こされたのでしょうか。それとも目の前の患者さんの対応をしていたら、いつのまにか周りの理解が進んだのでしょうか?」
保田PT:強い痛みのある患者さんの入院後すぐから介入して、入院着に着替える時にモジュラーフレームコルセットも装着してもらい「起きれたら、起きてみましょう」と声掛けすると、あれだけ痛がっていた方が「装具を着けたら痛くない」と起きられるのを目の前で見てもらうとナースの認識は変わりますね。装具をちゃんと装着すると、患者さんも動けるようになるし、認知症も進まないし、トイレも自分で行けるようになる人もいるし、どうやらあれはめちゃくちゃいいらしい、と申し送りが繰り返され徐々に浸透していったという感じです。
「装具の効果を実感していくなかで病院内の理解が進んだのですね。モジュラーフレームコルセットを着けて圧迫骨折を治療するのが当たり前だと定着するのには、どれほどの時間がかかったのでしょうか」
岡安OT:結構、時間がかかって、この5、6年でだんだん変わってきた印象です。今でもまれに、お風呂の後にコルセットが上下逆に着けられたり、ゆるゆるだったりということもありますが、やはり知らない、わからないと装具をきちんと装着できないですよね。
別の科から整形外科に異動してきた方や、新人さんはモジュラーフレームコルセットを見たことがないこともあるので、リハビリ担当者が入って着け方を教えます。そうやって教育を繰り返す中で、適切に着けないと苦痛になる、逆にぴったり着けられたら認知症の方でも外そうとしないといったことを知ることができます。



装具で変わる、その後の生活
「装具の正しい装着、適合が定着する過程でいろいろなご苦労があったのですね。圧迫骨折の入院患者さんにとってモジュラーフレームコルセットの装着に対する違和感は今もあるのでしょうか?」
加藤医師:今もほとんどの患者さんにとって、装具は見るのも初めての未知なるものです。コルセットといえばゴムバンド的なものやダーメンコルセットをイメージする方が多いので、モジュラーフレームコルセットのような硬いガッチリしたものが出てきたら、これを着けないといけないのかとびっくりされますね。
でも装着に困惑する方がいざ着けてみると、起居動作ができるようになって「これなら着けられる」と意識が変わります。実際に痛みの訴えが減りますし、成績がいいなと感じます。

モジュラーフレームコルセットを装着し体操する患者さん
モジュラーフレームコルセットの早期装着を圧迫骨折治療のスタンダードへ
「先週も3名同時に圧迫骨折で入院された方がおられたと伺いましたが、実際にどれぐらいの症例があるのでしょうか」
加藤医師:当院では毎週のように入院があり、2016年~2024年の9年間に圧迫骨折で入院した方は約360名でした。そのうち統計できたのが5年間で190症例です。日本では年間400万人ほど圧迫骨折が発生しているという話もあるほど、圧迫骨折は一大市場なのですが、まだまだ装具を使用した早期離床という治療のやり方がわからず、昔ながらの治療をされている地域や病院が多くあるのが現状だと思います。
岡安OT:昔は圧迫骨折でもギックリ腰だと思われて、家で寝て治そうと病院にかからなかったり、その結果円背が進んでしまったりしたケースが多かったのではと、僕は思います。今は腰が痛くて動けないと病院に行くことが増え、圧迫骨折という診断がついて入院治療する人が増えたのではないでしょうか。
加藤医師:急速にMRI撮影ができる環境が広まり、MRIを撮りましょうというガイドラインがここ5年、10年で出てきてから、レントゲンだけでははっきりわからなかった圧迫骨折もすぐに診断がつくようになりました。
うちでは、外来受診に来た方が症状から圧迫骨折だろうと思えた時は、とりあえず入院して精密検査しましょうとMRIを撮影します。すると大体の場合、骨折していますね。かつては診断がついてからモジュラーフレームコルセットを処方しましたが、今では入院したら検査結果が出る前からモジュラーフレームコルセットでリハビリをしてもらいます。それでもし圧迫骨折ではなかったら装具を外せばいいだけですので、そのようにより手堅くいくことが半ばパスになりつつあります。
「先生がおっしゃる「成績が良い」というのは、入院期間が短縮するという意味でしょうか?」
加藤医師:入院期間の短縮には実はあまりこだわっていません。圧迫骨折が起きた患者さんの体が変形したり、痛みが残ったりする従来型の治療にすごく問題意識を持っていたので、症状が残存しないことと偽関節が起こらないことを重視しています。
早期にきちんと固定して体を起こすと痛みがなく動けますし、レントゲンを撮って確認すると椎体がそんなに潰れてきません。つまり装具を着けると、変形も痛みもなくリハビリができるから足腰も弱らないということについて成績が良いと表現します。
モジュラーフレームコルセットを導入した当院での臨床結果

[資料4]

[資料5]

[資料6]
「病院の経営的に成績が良いという話ではなく、患者さんファーストなところで成績が良いとおっしゃられているということですね」
加藤医師:モジュラーフレームコルセットを使った圧迫骨折の治療は、患者さんにとって治るとか、その後の被害が最小限になるという意味での成績が良いですね。非常によい治療方法なので世の中に広まっていくよう、ご協力をお願いできたらと思います。
「ありがとうございます。本当に参考になるお話でした。」
◆資料1―6は、第40回日本義肢装具学会学術大会にて報告の資料より抜粋
モジュラーフレームコルセットの効果は単なる「固定」にとどまりません。適切に使えば、痛みの軽減や骨の変形防止、さらには患者さんの早期離床と生活機能の維持に大きく貢献するツールです。その有効性を支えるのは、現場の創意工夫と多職種連携。患者さんファーストの視点で医療の質を高めたいと考えるすべての方へ──。本記事が新たな一歩のヒントとなれば幸いです。
モジュラーフレームコルセット 製品ページ
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