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MILINE ー互換性のある次世代足継手ー

装具

MILINE ー互換性のある次世代足継手ー

MILINE -Metric Interchangeable

ベッカーオーソぺディック
義肢装具士 小林菜美

2025-06-02

はじめに

短下肢装具は、下肢に影響を及ぼす多様な病気や障害などを持つ幅広い年齢層の方に使用されています。装具は患者様の病態や機能障害の程度や職業や生活様式など考慮する必要がありますが、選択肢の多い短下肢装具から一人ひとりに最適な短下肢装具を選択することは容易ではありません。また、患者様の病態によって機能障害の程度は変化を伴うものもあり、同じ短下肢装具を使用し続けることによって、不利益を生じることも考えられます。
患者様にとって装具を使用する目的は様々ですが、安定した立位や歩行を目指し、失われた機能の回復をすることが最も重要です。そのため、短下肢装具とその足継手の機能を理解し、失われた機能を補完できる足継手を選択することが求められます。
 
アメリカ・ベッカーオーソぺディック社の次世代足継手MILINEをご紹介します。
ベッカー社は1933年創業のアメリカの義肢装具メーカーです。ダブルアクションジョイント(ダブルクレンザック)やリングロック膝継手を開発し、代表的な装具の継手として今なお日本でも使用されています。
MILINEはダブルアクションジョイントから発展した次世代モジュラー式高性能装具用足継手です。プラスチック性の短下肢装具や金属製の両側支柱短下肢装具など様々な支持部と組み合わせ、優れた耐久性と機能、用途を提供します。
種類はダブルアクションとシングルアクションおよびスタンダードアクションの3種類で、ダブルアクションは底背屈補助(背底屈制動)継手、シングルアクションは背屈補助(底屈制動)もしくは底屈補助(背屈制動)継手、スタンダードアクションは遊動、または底屈制限、背屈制限、底背屈制限継手です。より強い制動力の必要な方のためにブースター付きスプリングオプションもあります。
また両側支柱デザイン、片側支柱デザインどちらのタイプの装具にも使用できる強度を持ち、あらゆる方にお使いいただけるサイズを用意しています。サイズは13mm,16mm,20mmの3サイズで、小児から成人160kgの方までご使用いただけます。多様な素材や制作方法で装具製作が可能で幅広い方にご使用いただけます。
 
MILINEの大きな特徴はそのデザインです。装具作成後、または装具使用中に支持部をそのまま利用し継手のみ交換が可能です。これはMILINEシリーズのあぶみと支柱に互換性があるためシリーズの継手同士の交換を可能にしました。患者様にとって最適な継手や装具は、症状や状況によって変化します。歩行能力に変化があった場合、また歩行機能が改善した場合など、状況の変化に応じて、装具を全て作り直すことなく、継手を交換することで、患者様にとって最適な機能を持った装具を使用し続けることができるのです。

目次

  1. MILINE足継手の特徴
  2. 体重制限
  3. MILINE足継手の種類
  4. ダブルアクション、シングルアクションのスプリング構成
  5. あぶみ、支柱及び付属品
  6. その他の特徴と注意点
  7. 調整手順

1.MILINE足継手の特徴



 

1.ブースター付きスプリングオプション
大柄な方や緊張度の高い方のように、より強い制動力や抵抗が必要な患者様のために、追加のブースター付きスプリングのオプションがあります。またブースターの中には2種類のバネが挿入されており、3段階の制動力に調整できます。
 
2. 移動防止調整ねじ
ねじロックなしでも抜けにくい移動防止調整ねじを搭載しました。従来の調整ねじは、使用途中で緩むことも多く、角度が変わってしまうことや抜け落ちることもありましたが、調整ねじの上部に、リング状のゴムを付けることによって、緩みにくく、かつ動かないように工夫しました。
 
3. 特注スプリング
MILINEに搭載されているバネは既製のバネではなく、この継手用に設計された特注バネです。特にこのブースター内に内蔵されているバネはスプリングレートが高い高剛性バネで、従来のバネよりも何倍も強く耐久性にも優れています。
 
4.支柱
支柱は、支柱ポケットにはめ込むように設計されています。出荷時はポケットよりも支柱の方を若干幅広に設定していますが、はめ込む時には、叩いて収納することにより遊びなくガタつきを生みにくい足継手になり、継手本体と支柱とを止めるネジの緩み防止にもなります。
 
5. 耐久性
高サイクル寿命と耐摩耗性に優れたピボットブッシュを採用しており、長時間使用や長期使用においても壊れにくい仕様になっています。
 
6. 角度目盛の刻印
あぶみには、角度目盛が刻印されています。初期設定は0度です。ROM角度は5度刻みで底屈背屈共に25度まで刻印されており、角度を読み取りやすくしました。
 
7.互換性
あぶみは互換性があり全てのMILINEシリーズの継手に使用可能です。シングルアクションからダブルアクションに交換、スタンダードアクションからシングルアクションなどの継手本体のみの交換が可能です。
 
8.ブースターロック
ブースターの下には、ブースターを固定するためのブースターロックを装備。
ブースターに何か外力が加わった時に、外れないように、また破損しないようにする保護の役割を担っています。
ブースターの調整やROM角度を調整する際には、必ずブースターロックのネジを緩めてから、調整を行ってください。
 
9.高強度素材
本体の素材は、高強度で耐腐食性のステンレス鋼を採用。この素材は摩耗せず、長時間、長期間使用可能です。
 
10.高い安定性
高強度で、片側支柱デザインでも高い安定性を保ちます。

2.体重制限


MILINEの適切なサイズの選択は患者様の体重を元に選択します。
MILINEには3種類のサイズがあります。13mm,16mm,20mm,の3サイズでこれは継手本体ではなく支柱の幅を示しています。
一番小型の13mmシリーズは片側支柱で50kg、両側支柱で80kgまでの方を対象としています。13mmは基本小児用として設計されています。アメリカでは10歳までは13mmを使用することを推奨し、その後大人のサイズに変えていくという基準を設けています。ただし、日本人とは体格の差が大きいので、体重範囲内であれば13mmを10歳以上の小児または体重が軽い成人の方が使用しても問題ありません。
16mmシリーズでは片側支柱で85kg、両側支柱で120kgまで、20mmシリーズでは片側支柱で110kg、両側支柱で160kgまでの成人の方を対象としています。
この継手は新しい製造方法で製造されており、従来の製造方法では実現できなかった、この体重制限を可能にしました。体格の良い患者様の新しい選択肢になると思っています。これは種類別ではなくMILINEシリーズ全ての継手の体重制限です。

3.MILINE足継手の種類

1.ダブルアクション

ブースターなしダブルアクション3サイズ。20mm,16mm,13mm。
後方ブースター付きダブルアクション3サイズ。20mm,16mm,13mm。
前方ブースター付きダブルアクション3サイズ。20mm,16mm,13mm。

 

ブースターは 13mmのみ形状が異なり、細長いブースターが付属しています。ブースターに内蔵されているバネもサイズによって種類が異なります。

ブースター付きダブルアクションは、後述する理論に基づいた体系的調整手順を示した表を用いて、足継手の設定を最短で最適な状態に調整することができます。

 
2. シングルアクション

ブースターなしシングルアクション3サイズ。20mm,16mm,13mm。
後方ブースター付き(背屈補助)シングルアクション3サイズ。20mm,16mm,13mm。
ダブルアクション同様にブースターは 13mmのみ形状が異なり、細長いブースターが付属しています。ブースターに内蔵されているバネもサイズによって種類が異なります。


 
使用する方向を変えることにより、前方ブースター付き(底屈補助)シングルアクションとしても使用できます。この場合は品番に注意してご注文ください。
 
3.スタンダードアクション

バネ等が一切入っていない足継手で、ユニバーサルあぶみを使用した場合は遊動継手になります。
スタンダードアクション3サイズ。20mm,16mm,13mm。
両側支柱デザインの装具を製作する際にスタンダードアクションを内側継手として使用していただくことが可能です。例えば、外側にダブルアクション、内側にこのスタンダードアクションを使用していただくという組み合わせです。
またスタンダード継手用に専用のあぶみがあります。あぶみの上端部に目盛が刻印されています。従来の製作方法で、この目盛に合わせて、あぶみをカットすることにより、遊動継手ではなく、底屈背屈の制限付き継手として使用できます。


4.ダブルアクション、シングルアクションのスプリング構成



この表はスプリングの組み合わせと各サイズの剛性、可動域を示しています。
MILINEはサイズや組み合わせによって制動力や、角度が変わります。
ブースターなし(NB)は従来のクレンザックと同様に、継手の中に、バネが入っています。
ただし、クレンザックと異なり、バネの中にモーションリミッターピンを挿入しています。これは、バネが圧縮されすぎることにより破損に繋がる例が多く確認されたため、バネに過度の負荷がかからないよう、バネの中にピンを入れ、破損を防ぎます。また従来の継手に使用されているバネは一般的に用いられているバネをカットし、チャンネルに挿入していましたが、MILINEはMILINE専用にバネもネジも一つひとつ特注で製作しています。
NBの左側に示されているピンはモーションストップピンを示しています。足継手の機能として、制動ではなく、制限をかけたい時にバネの代わりにこのピンを使用することもできます。
B1からB3はブースター付きの組み合わせ方法です。ブースターの中に入れるバネの組み合わせによって補助力や制動力の強さを調整します。B3が最大剛性の組み合わせです。バネは全てセットされた状態で出荷されますので、追加でバネを購入する必要はありません。患者様に必要なバネの組み合わせを選択しブースター内のバネを設置します。サイズによって、付属しているバネやピンの種類は異なります。これは各サイズで最大限に効果を発揮できる強さや組み合わせを検討した結果です。
表の上の図で、スペーサーは水色で表示されていますが実際には黒色でB1の組み合わせ時のみ使用します。

ベッカー社 MILINE ダブルアクションバネ設置方法【P-News】2025.6.2号

5.あぶみ、支柱及び付属品


1.あぶみ

あぶみはY字あぶみ、リベットあぶみの2種類で、スタンダードアクション用のオプションがそれぞれにあります。16mmのサイズにのみヘビーデューティー(HD)を選択することができます。より高い強度が必要な患者様の場合はHDを選択してください。
あぶみはMILINEシリーズ全ての足継手に使用可能で、互換性があります。高強度の耐腐食性鋼を使用しており耐久性に優れています。工学テストでは、日本のJIS基準をはるかに超えるサイクル試験に合格している、長寿命のあぶみです。
 
2.支柱

支柱は3種で、支持部により選択してください。支持部がプラスチック製もしくはラミネーション等の熱硬化性樹脂を用いた両側継手デザイン用、片側継手デザイン用、両側支柱短下肢装具用の3種です。あぶみ同様に、素材は耐久性のあるステンレス鋼を使用しています。
患者様の下腿長や装具のデザインによって、長さをカットして製作していただくことも可能です。
生体と装具足継手のクリアランスを取りやすくするために支柱はあらかじめオフセットしています。支柱は、継手の支柱ポケットに収まるように作られていますが、ポケットよりも支柱の方が若干大きく設計されています。はめ込む時には、支柱の側面を少しずつ削り、叩いて収納してください。支柱を支柱ポケットにピッタリ収納することにより、支柱に遊びができず、耐久性をより高め、ネジの緩み防止にもなります。
 
3.製作キットMI-FTK

ベッカー社 MILINE 製作キット【P-News】2025.6.2号

MILINE専用の製作治具です。設定した足関節軸から、足継手を設置します。内外側を平行に保持し、あぶみと支柱のアライメントを保持することで組み立てを容易にします。耐久性があるので、何度でもご使用いただけます。スタンダードアクション用のキットも同梱されています。詳しくはクイックスタートガイドを参照してください。

6.その他の特徴と注意点

1.スラストワッシャー

あぶみと足継手本体間の遊びを最小限にすることを目的に、厚さの異なるワッシャーを付属しています。5種類のスラストワッシャーから、足継手の遊びを確認しながら、付属の青色の挿入ツールを用いて取り付けてください。軸のピボットブッシングを締める前に遊びを確認し、最適なワッシャーを選択してください。
スラストワッシャーサイズは0−4と表記されています。0が一番薄いワッシャーです。
サイズはノッチ(切り込み)の数で判別できます。厚さ約0.005インチ(0.1から0.15mm)刻みで、足継手に挿入する2枚のワッシャーは厚さが異なっても構いません。通常1のスラストワッシャーからスタートし、遊びを確認します。

ベッカー社 MILINE スラストワッシャー【P-News】2025.6.2号

MILINEの修理や点検を行う際にはこのワッシャーは必ず交換し、足継手の摩耗を防いでください。
 

2.ピンの挿入方法

ベッカー社 MILINE カプラーピン挿入【P-News】2025.6.2号

ブースター付きのMILINEの継手内に挿入するのはバネではなくピンです。長さの異なるピンが2本付属していますので、長いカプラーピンをブースター側に挿入し、短いモーションストップピンをもう片方に挿入します。ピンは継手の下方から挿入します。ピンを使用する時には、従来の足継手のバネの下にあるボールベアリングは使用しません。

7.調整手順

ベッカーオーソぺディック社は臨床の場で初めて金属製足継手を用いたAFOの調整方法論を示したメーカーです。MILINEにおいても理論に基づいた体系的な調整手順を提供しております。

MILINE調整手順PDF

 
装具の調整は、大前提として、必要以上に抵抗や制動をかけすぎず、必要最小限の制動力と補助力で、最大の臨床効果を得るという目的があります。
足継手の調整機能を用いて、患者様の生体を固定せず、制御します。
この調整手順は、義肢装具士や理学療法士が義足の調整を行うのと同じように、装具においても調整を行います。ベンチアライメントを装具制作時に設定し、患者様に装着し、スタティックアライメント、ダイナミックアライメントを行います。患者様の足継手の設定を調整手順に従い調整を行うことで、足継手を最短で最適な状態に到達させることができます。患者様の歩行状態を観察し、調整を行い、一人ひとりの歩行能力の向上や歩行速度の改善を促し、かつ何度でも調整のやり直しをすることができます。

まとめ

MILINE足継手は、高強度長寿命、かつ汎用性の高い足継手です。支持部の素材の選択肢も多く、歩行の状態の変化に応じて継手のみを交換できる互換性もあります。小児から成人までのサイズバリエーションがあり、160kgの方までご使用いただけます。
足継手は装具の継手の中でも種類が多く、その機能も様々ですが、ぜひMILINEを選択肢の一つに加えてください。

 


パシフィックサプライ製品担当者より
このたび令和7年度の完成用部品に、MILINEシリーズより下記のラインナップが新しく登録されました。
製品の特徴や詳細について、以下ご案内しておりますので、ぜひご覧ください。

【ベッカー/装具】新規取扱開始のお知らせ 2025.4.1 ご案内はこちら

パシフィックサプライでは継手の特性を確認いただけるようデモ機もご用意しております。
この機会にぜひお試しいただき、数ある選択肢の中の一つに加えていただけますと幸いです。
お気軽にお問い合わせくださいませ。

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