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感覚統合Update 第4回:行為機能障害とは?-観念化(ideation)-

感覚統合

感覚統合Update 第4回:行為機能障害とは?-観念化(ideation)-

感覚統合Update 第4回:行為機能障害とは?-観念化(ideation)-

関西医科大学 リハビリテーション学部 作業療法学科 加藤寿宏

2022-04-01

第3回は発達性協調運動症(developmental coordination disorder ; DCD)について話をしました。

感覚統合Update 第3回:発達性協調運動症とは? 
2022.2.1号

今回は、感覚統合障害(感覚処理障害)の一つの障害である感覚ベースの運動障害、その中でも行為機能障害について話をします。

行為機能障害(dyspraxia)とは?

行為とは「人が意思(意志)に基づいてする行い」です。ここで重要なのは、意思に基づくということです。成人で脳梗塞などにより脳に障害をうけると、要求されている運動を理解しているにも関わらず、すでに獲得されていた習熟した動作ができない障害が現れることがあります。このような後天性の行為の障害を失行(apraxia)といいます。失行は、運動の麻痺や感覚の障害がなく、要求されている運動を理解しているにも関わらず、獲得されていた意思に基づく動作や新たな動作の学習ができない障害です。
感覚統合に障害がある子どもは、成人の脳梗塞のように脳に明らかな障害があるわけではありません。しかし、失行とよく似た症状が見られることが多くあります。これを行為機能(praxis)の障害(行為機能障害;dyspraxia)といいます。機能とついていることも、器質的な脳障害ではないということを示しています。行為機能障害も失行と同様に、運動の麻痺や感覚の障害がみられないという点は共通しています。
Ayresは行為機能(praxis)を「新しい・不慣れな運動や行動を企画する能力であり、それは人の行動と対象物についての知識や動機、意思を必要とするプロセスである」1)と説明しています。運動企画(motor planning)という言葉を行為機能と同義語に使用していることもありますが、行為機能は運動企画よりも広い概念として捉えることができます。これについては、次々回ぐらいに説明をします。

人の発達における行為機能の重要性

みなさんの中に、最近の生活で新しい・不慣れな運動や行動をしたことがある方は、どのくらいいるでしょうか。新しい物や状況との出会いは、大人よりも子どもが、子どもでも年齢が低い子どもの方が多いことは想像できるかと思います。第3回の子どもの写真を思い出してみてください。箸、はさみ、鉄棒、自転車は、大人にとっては慣れ親しんだ物ですが、子どもにとっては新しい・不慣れな物となります。また、鉄棒にぶら下がることはできたとしても、前回りや足抜きは新しい・不慣れな運動となります。
人は他の動物とは比較できないほどの多くの新しい物や状況との出会いがあります。また、いつも使っている馴染みの物であっても、新たな遊び方や使い方を考え、試してみることで、新たな物を生み出すきっかけとなることもあります。このようなことが可能となるのは、人が高い知能と思いのままに動かすことができる身体を基盤とした、優れた行為機能が備わっているからです。行為機能は、人を発達、進化させていく上で不可欠となる機能です。

行為機能の3つのプロセス

行為機能は、「新しい・不慣れな運動や行動を企画する能力」というかなり漠然とした定義です。もう少しわかりやすくするために、具体的な遊びの場面で行為機能を考えてみることにします。
Ayresは行為機能を観念化(ideation)、行動計画の過程(planning a course of action)、遂行(executing the action)の3つのプロセスに分けています。図1は行為機能のプロセスについて先行研究をもとにし、私たちが作成したものです。これを見ると、行為機能の複雑さがわかると思います。複雑ではありますが、行為機能障害を支援するためには、この3つのプロセスのどこにつまずきがあるのかをアセスメントしなければなりません。そのためには、まず、3つのプロセスについて知ることが不可欠となります。今回は、行為機能の最初の段階である観念化について考えてみましょう。


図1 行為機能のプロセス
 (Ayres 19851), Roley 20072, 加藤ら 20213を参考に作成)

観念化(ideation)とは

写真は3歳のAくんが塀の上を歩いていた途中に、立てかけてあった自転車のハンドルがあった場面です。Aくんは、活発な子どもなので、いつも塀の上にあがり、その上を歩いていましたが、自転車のハンドルが行く手を邪魔している状況は、はじめてでした。このような新規の場面で行為機能は必要となります。「新しい・不慣れな」というと、今まで見たことがない物で遊ぶ場面を想定するかもしれませんが、決してそうでありません。様々な難易度の新しい・不慣れな物や状況が連続して存在しているのです。行為機能障害がある子どもは、私たちにとっては、ほんの些細な新しさや状況でも上手く対応していけないのです。


写真 観念化が必要な状況

自転車のハンドルが子どもの進行を妨げている

話はAくんにもどります。いつもと異なる状況にとまどいつつもAくんは、「ハンドルを越えて進んでみよう」と考えました。これが行為機能の観念化です。英語のideationに含まれているアイデア(idea)の方がイメージしやすいかもしれませんが、ideate(観念化する、思い描く、考える)という動詞の名詞形であるideationを用いているところにAyresのこだわりがあると思います。アイデアは、他人から与えられるものではなく、子ども自身が主体的に引き出すという意味がこめられているのでしょう。
観念化は、具体的な方法を考えるのではなく、「こんなことしてみよう」といったひらめき(図2 )に近いものです。子どもがよく言う「いいこと思いついちゃった!」は観念化の段階で、Aくんの場合は「越えてみよう」です。
このひらめきを、運動や行動として実行するには、どのように行えばよいのか、もう少し詳細で具体的な計画を立てる必要があります。これが、次の段階の行動計画の過程となります。これについては次々回ぐらいで話をします。


図2 観念化のイメージ図

図1を見てください。観念化には様々な能力が必要であることがわかると思います。ここでは重要な点のみ話をします。「○○してみよう」と思うには、動機づけ(モチベーション)や意思が必要となります。動機づけは大きく内発的動機づけと外発的動機づけの2つに分けることができますが、感覚統合で重要となるのは、内発的動機づけです。外発的動機づけは、他からのご褒美などにより行動を起こすのに対し、内発的動機づけは興味・関心や意欲など子ども自身の内面から湧き上がるもので行動を起こします。
「○○(少し苦手なこと)ができたら、○○(好きなこと)をしよう」といった治療場面は、外発的な動機づけによるものです。先ほども述べましたが、観念化はアイデアを子ども自身が引き出すもので、そのためには、その活動や遊び自体がご褒美とならなければなりません。Aくんにとって「自転車のハンドルを越える活動」そのものがご褒美なのです。これが内発的動機づけに基づく活動で、感覚統合療法の原則の一つです。
観念化においては、対象となる物などの外部環境についての状況を把握し、過去の経験などに基づく知識と照合することも必要です。状況の把握は、自転車のハンドルが少し高い位置で邪魔をしている等の視覚情報のみでなく、ハンドルを触った時に感じる、固くて少しぐらぐら動く等の体性感覚(触覚・固有受容感覚)の情報など、外部環境からの様々な感覚を統合し状況を把握することが重要となります。例えば、ハンドルがゴムのように柔らかければ(ありえませんが)、ハンドルをつかみ姿勢を安定させることができなくなるため、「越えてみよう」という観念化は思い浮かばないかもしれません。高い位置にハンドルがあれば「くぐろう」「ジャンプしよう」「あきらめて降りよう」となるかもしれません。
ハンドルが高い位置にあったときに「くぐる」「ジャンプする」「降りる」のどれを思いつくのかは、自己身体の把握(身体図式;body schema)と関連します。身体図式は運動や行動の際に無意識に参照される脳の中にある自分の身体のイメージです。
この場面においては、自分の足の長さでハンドルの高さを越えられるか、足の長さは大丈夫でも、越えられるだけの高さをジャンプできるのか、ジャンプできたとしても着地したときにバランスは保てるのかなど、自分の身体の大きさや能力(身体図式)と外部の対象物の状況を照合することで、適切な観念化がなされるのです。身体図式は感覚統合において非常に重要ですので、次回にくわしく解説をします。
社会的状況の把握は、観念化に影響を与える要因の一つで、年齢が高くなると特に重要となります。例えば、「○○してみよう」と思いついても、一人でいるのか人が大勢いるのか、自宅なのか学校なのか、学校でも休み時間なのか授業中なのかにより、行わなかったり、別の方法で行ったりするかもしれません。
このように観念化は、様々な要因が関連するとても複雑な概念であることがわかると思います。

観念化の障害とは

観念化に障害があるとどのようになるのでしょうか?
子どもは様々な遊びを思いつきますが、観念化に問題があると、いつも同じおもちゃで同じ遊び方でしか遊ばないかもしれません。また、子どもにとって新しい物やおもちゃはとても魅力的なものなのですが、興味を示すことが少ないかもしれませんし、興味を示しても叩く、投げるといった、その子にとって数少ない関わることができる方法で遊ぶかもしれません。新しい場面や状況も苦手ですので、自宅など馴染みのある場所以外に行くことを避けたり、そのような状況に遭遇した際にフリーズしてしまうこともあります。
子どもは、新しい環境(もの、状況)と相互作用しながら発達していきますが、観念化の障害は、このような新しい環境への相互作用を妨げるのです。


1)Ayres AJ (1985):Developmental dyspraxia and adult apraxia. Torrance, CA: sensory integration international. 25 the anniversary edition Ayres dyspraxia monograph
2)Roley SS, Blanche EI, SchaafRC(2007):Understanding the Nature of Sensory Integration with Diverse Populations . Pro-Ed
3)加藤寿宏,松島佳苗,高畑脩平(2021):エビデンスでひもとく発達障害作業療法.シービーアール

執筆者プロフィール

加藤 寿宏
関西医科大学 リハビリテーション学部
作業療法学科 教授
関西医科大学 リハビリテーション学部
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【専門】
 発達障害の作業療法
 感覚統合療法
 
【資格】
 専門作業療法士(特別支援教育)
 公認心理師
 日本感覚統合学会認定セラピスト
 特別支援教育士 SV

 
【学会】
 京都府作業療法士会副会長
 日本感覚統合学会副会長、講師
 日本発達系作業療法学会会長

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