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第2回 「脳卒中片麻痺患者に対する装具の選定-義肢装具士に期待する役割-」 

装具

第2回 「脳卒中片麻痺患者に対する装具の選定-義肢装具士に期待する役割-」 

第2回 「脳卒中片麻痺患者に対する装具の選定-義肢装具士に期待する役割-」 

京都大学大学院 医学研究科
人間健康科学系専攻 大畑 光司

2022-03-01

第27回日本義肢装具士協会学術大会での弊社共催セミナーにて、京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 大畑光司 先生にご講演頂いた内容を4回にわけてお伝えいたしております。

第2回目は、医療・ヘルスケアの未来像や義肢装具士に求められる理論知、PT・OT・POにおける臨床推論についてのご講演内容です。

 

12/15号: 第1回「脳卒中片麻痺患者に対する装具の選定-義肢装具士に期待する役割-」

医療・ヘルスケアの未来像

装具における「共創」とは?
医療におけるチームアプローチというのは、医療業界ではよく耳にする言葉です。例えば「装具を製作する」という一点で見ても、義肢装具士を中心に、医師や理学療法士など様々な職種が関わります。全ての関連職種が対象となる方のために装具を作り上げるべくその専門性を発揮することになります。このようないわゆるチームアプローチは、個々の専門職種がその役割に応じて協力する関係を指しますが、このような関係性は、組織間連携の新しい考え方として近年提唱されている「共創」という概念と類似しているのではないかと思います。
 
資本主義においては、経済的な利潤を追求する競争型の社会が根底にあります。企業が自社の利益を拡大するために激しい競争を繰り広げる訳ですが、一つの企業の利潤を追求することのみ優先すると、結果的には貧富の差の拡大や資源の消費という面で、より全体的な利益を損なうことになってしまいます。この問題に対して、共創社会とは企業が様々なステークホルダーと協働して共に新たな価値を創造する社会を目指します。
 
この「共創(コ・クリエーション[Co-Creation])」という概念には、「双方向性」、「共有」、「提携」という3つのコンパートメントが含まれています。ここで、この考え方を装具製作に対応させてみたいと思います。
 
①「双方向性」と装具製
まず、1つめのコンパートメントは「双方向性」です。例えば、これまで既存の商品の利益は、「モノを提供して、対価を得る」ということにより得られました。提供したモノは、顧客の所有物となるわけで、品質保証などは行われますが、基本的にどのように使用するかは顧客の自由である訳です。逆に、一旦、制作され、完成品として顧客に手渡されたものは企業側ではどのように使用されているかを把握することはありません。
しかしここで言う双方向性というのは「完成したモノを手渡す」という状態ではなく、「共に、一緒に作り上げる」ことを意味します。顧客からの意見を受けて修正したり、顧客からのリクエストに応じてより商品の機能性を高めたりというように、顧客と一緒に作り上げることを目指します。
このような考え方はIT分野で発展した考え方ですが、実際には義肢装具士は今までもそれをやっていたのではないかと思います。例えば、装具を納品するという時に、納品してそれで終わりかというと、私の知っているすごく丁寧な義肢装具士さんは、必ず、実際に使ってみて装具が適合しているかを確認します。問題があれば修正しますし、耐用年数を過ぎていないかなども確認します。そういう意味では、実はこの「共創」における双方向性というのは、義肢装具士がそもそもやっていたことなのではないかと思う訳です。つまり、装具というのは、完成品として手渡すのではなくて、対象者の生活の状況に合わせて、一緒にその人と作ってゆくものである、そういう考え方ができるのではないかと考えております。
 
 「共有」と装具製作
次に「共有」という考え方について説明します。共有とは企業や団体などの様々なレベルの組織で共通の目的のもとにコンソーシアムなどのオープンな関係を築き、知恵を持ち寄って価値を生み出すことを言います。これまでの単一の組織のみでの取り組みを考えると「リーダーがいて、そのリーダーがそれぞれに指示を出す」というようなシステムで動いている組織が多く、「上意下達方式の指令系統しかもっていない」場合が多かった訳です。このような組織は、硬直した考え方に陥りやすく、非常にもろいと言われています。
この点を、装具製作に当てはめてみましょう。一例として、いわゆるブレースクリニックの場面などを思い出していただきたい訳です。例えばそこで、医師や理学療法士、義肢装具士が集まって意見を述べるとします。その装具に対して、「医師が言ったからそうならないといけない」もしくは、「理学療法士が言ったからそうならないといけない」という形のものづくりの在り方というのは、結果的に一面的な見方になる可能性があるのではないでしょうか。処方や発注側の意見が重くなるのは当然ですが、そこに生じる「見落とし」に気づかなくなる可能性がある訳です。医師や理学療法士が何らかの意見を言い、それで義肢装具士も意見を言う。その中で「もっともいいもの」に決まっていくべきで、お互いに専門職としての意見を出し合うというようなことが、すごく大事になるのではないかと思います。
 
 共創における「提携」について
最後に「提携」について考えてみます。例えば、義肢装具士さんであれば、多くの方が「最高の装具を作り上げて、顧客に渡したい」と誇りをもって仕事をされているでしょう。確かに職人的にはすごく大事なことです。しかし、たとえ最高の装具を渡したとしても、その人に歩く意欲がなかったらどうでしょう。「最高の装具を渡しているのだから、その人はこれを使って歩いてくれるだろう」と言えるでしょうか。おそらく、最高の装具を作ると同時に、「歩行の機能、歩行の意欲を改善させる人」が必要になるかもしれません。さらに「疾患管理がしっかりしていないと、重症化した場合にそもそも装具が役に立たなくなっていく」訳です。つまり、医師や理学療法士がそれぞれの異なる立場の専門性を活かして、提携することが求められる訳です。それぞれの専門職種には得意な部分と苦手な部分があります。それぞれの得意な部分に対して、お互いに「頼ろうよ」というのがこの「提携」という考え方です。 
例えば、「装具を作ったけれども、ろくなリハビリをやっていない」というような状況があるかもしれません。逆に「理学療法士がすごく頑張って歩かせようとしているけれども、全然合っていない装具を渡された」というような形になることもあるかもしれません。そうなると、全体として、対象者の「生活を改善する」という目的は達せられない訳で、お互いに任せておくことができなくなります。それぞれがそれぞれの得意を活かす。そのような関係性というのが、「共創」の中で必要になってくる要素なのだと思います。
 

理論知(Knowledge)と実践知(Skill): 臨床における実践知の在り方

義肢装具士の知識と経験
さて、義肢装具士さんの仕事を考えるとき、義肢装具学の知識や装具製作の経験が非常に重要となることは言うまでもないと思います。ここで、いわゆる実践者としての知識のあり方について、少しまとめてみたいと思います。一般的に、「理論知(Knowledge)と実践知(Skill)」という考え方があります。まず、医療従事者は医学や医療の基本的な知識を学びます。身体の機能や疾病の知識は医療従事者において欠かすことのできない知識であり、臨床現場では常に求められることになりますので、単に養成校で学んだ知識だけでなく、日々、勉強しながら、身に付けていくことになります。
一方で、実際にそれを適用するには実践知が必要です。例えば義肢装具士さんが、いろいろな装具の部品の名前を知っている、いろいろな装具の形を知っている、どの疾患に何が対応するかということも知っているとします。しかし実際にその状況に対峙した経験がなかったらどうでしょうか。実際、患者さんの動きをみて、「この動きにはここが問題だな」というようなことをきちんと想定できるでしょうか。おそらく、仮に知識として知っていたとしても、実際の状況でそれを思いつけるかどうかは別の能力が必要になります。これが実践知と言われるものです。実践知は経験とともに身に付く知識であり、実行力の源泉となるものです。
つまり、適切な装具を製作するためには理論知と実践知の両方が必要で、特に「どういう装具を組み立てていくべきか」という場合には、実践知に基づいた臨床的な推論(クリニカルリーズニング)が、すごく大切になると思います。したがって、知識の積み重ねと、経験の積み重ねが義肢装具士さんのスキルを作ってゆくのではないかと思います。
 
臨床現場での判断:臨床推論
さて、もう少し「臨床推論」について深掘りしていきたいと思います。そもそも臨床推論は、様々な定義がなされていますが、簡単に言うと、「問題があって、それに合った解決方法を考える思考過程」のことです。そしてこの「適切に思考過程を進めるためにはスキルが必要」となります。事実、病院の中では思考が求められる場面はたくさんあります。医師の場合は病名を決定したり、診断を下したり、評価に基づいて予後を推測したり、目標を立てたり、様々な思考を組み合わせていかないといけません。ですから、医師は教育過程でこのような思考過程に対するトレーニングが非常に多く行われているのです。
しかし、それでも医師が正しい思考過程を踏めない場合があります。例えば、「ドクターが一番誤診しやすいプロセスはどこか」という研究がなされています。実際の誤診の理由としては、患者側の問題であったり、診断テストのミスであったり、フォローアップ体制に問題があったりなど、様々なタイプの誤診が存在します。けれども、この研究が報告するところによると、実は「患者と医療者間の直接のやり取りの中で生じてくるミス」が、圧倒的に多いというのです。例えば診察の場面において、その判断は患者の様子を見ながらその場で判断しなければなりません。仮に知識として知っていたとしても「患者と一緒にいる場面の中で即座に正しい判断が求められる状況」というのは、かなり難しい状況です。このような状況でも正しい判断にたどり着くためにはどのようなスキルが必要なのでしょうか。
 
医療専門職に求められる臨床推論
臨床推論において「それぞれの職種が気にしていることは何なのか」ということをまとめた論文があります。この論文では、「臨床推論」について書かれた論文におけるキーワードや頻出語句を調査することで、それぞれの専門職における推論上での着眼点を明らかにしようとしました。
まず、医師は「正しい診断に到達する」ことを最も大事にしています。当然ですが、医師の判断は患者の生命に直結し、医師は間違うことが許されない、非常に過酷な職種であると言えます。ただし、救急医療のような緊急性の高い場面では、正しさより処置の速さを優先する場合もありますし、近年では、最終の判断を患者の個性を考慮して共に行う、「共有意思決定(シェアードディシジョンメイキング)」のような考え方も提唱されています。
次に看護師は、「一番患者さんと触れ合っている」職種であり、症状の変化を一番初めに発見する職種になるわけです。ですから、「初期の異常を発見するスキル」や、「瞬間的な行動や相互作用について理解し、判断する」というような能力が必要になります。このためには患者との共感力や観察眼が求められるわけです。
理学療法士、作業療法士は、患者のニーズを汲み取り、本人の努力を引き出しながら、患者自身の行動変容を促す必要があります。このため、これらの職種では「患者との共同作業」を営むスキルが求められるわけです。病態とそれに対する内省、動き方の観察と病状の把握、情動と行動に対するモチベーションなど、状況に応じて目的を達成する道筋を決める必要があります。
では、義肢装具士さんにはどのようなスキルが求められるのでしょうか。義肢装具士はこの論文の対象に入っていないため詳細はわかりません。一般に義肢装具士は「装具の製作」の専門家であるため、制作過程が重要視されるように見られがちですが、最も重要になってくるのは、患者さんと直接対峙する採型の場面にあるのではないかと考えています。つまり、「対象者の希望を洞察し、最適な装具の計画を立てられる能力」が求められるのではないかと思います。
 
臨床推論のためのスキル:仮説演繹法
さて、実践知として臨床推論を行うためのスキルには、大きく二つあります。一つは、仮説演繹法、もう一つはReflection-in-action(第4回にて掲載予定)という方法です。ここでは、まず仮説演繹法について説明したいと思います。仮説演繹法というのは、医師や科学者が行う思考のスキルです。
仮説演繹法では、現状を説明しうる可能性のある現象を、すべて仮説として想起します。想起された仮説を、一つずつ排除し、確度の高い仮説を残していきます。例えば、症状や検査結果から、想定される疾患を全て網羅的に想起します。想起された疾患の中から現状の症状に、当てはまらないものを排除していきます。最終的に排除できない疾患について精査し、確定診断に至るという方法です。漏れなく全ての仮説をリスト化する必要がありますが、熟練した医師では、「この仮説は検証する必要はない」ということがわかってくるため、前向き推論という形でより効率的に診断が下されるようになります。数多くの仮説を立てて、漏れなくリスト化し、それに対して推論を立てながら治療方針を決定する、ということが医師の正確な判断の基礎になっています。
 
無作為対照試験
仮説演繹法を行うためには、実際に仮説を否定できる根拠が必要になります。この源泉になっているのが臨床研究です。医学において臨床研究が極めて重要な理由はここにあります。一方で、「実際に試してみて、それでよかったらいい」という考え方をされる義肢装具士さんがおられるかもしれません。例えば、片麻痺を持つ方に対して、シューホーンブレースを使用する方がいいか、オルトップブレースの方がいいかということを決める場面があったとします。仮に実際に使ってみて、「シューホーンがいい」ということになったとします。それ自体は間違っていないわけです。では、その結果をみて、同様の患者さんにはシューホーンにするという決定を下すのは正しいでしょうか。ここでの問題は、本当に同じタイプの患者さんが来た時に、「このシューホーンが適合した経験が、他の患者さんにも当てはまるのかということを考える必要があることです。
シューホーンの結果が良かったのは、対象となった患者さんに、シューホーンが好ましくなる特殊な理由があったからかもしれません。例えば、色がキレイだったとか、たまたま歩きやすい地面だったとか、適合と関係のない事象が影響する可能性があるわけです。これをバイアスといいます。また、もしかしたらオルトップを使った方が良い結果が出たかもしれません。それを直接比較するには、時間を巻き戻して、条件を揃えて比べないといけないことになります。けれども実際にはそんなことはできません。だから、そのようなバイアスをできるだけ少なくして、比較する試験(無作為対照試験)が必要になります。Aという装具とBという装具を、できるだけ条件を整えて使った場合にどうなるか。そのような臨床研究が増えれば、より厳密な臨床推論が可能になります。これが、エビデンスという考え方の流れになるわけです。
 

次回(2022年3月15日号)は、装具の意義についての講演内容をお伝えします。

執筆者プロフィール

大畑  光司
京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 講師
京都大学医学部人間健康科学科先端リハビリテーション科学コース
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【専門領域】
専門理学療法士(神経)
認定理学療法士(小児)
 
【資格】
理学療法士
博士(医学)
 
【所属学会】
一般社団法人 日本神経理学療法学会理事長
一般社団法人 日本理学療法士学会連合副理事長
公益社団法人 日本理学療法士協会標準評価作成部会 部会長
日本義肢装具学会会員

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