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高齢者の義足リハビリテーション

義肢

高齢者の義足リハビリテーション

高齢者の義足リハビリテーション

大阪人間科学大学 理学療法学科 教授 長倉裕二 先生
パシフィックサプライ株式会社 事業開発本部 事業推進部 橋本 寛(義肢装具士)

2020-10-15

本年度は新型コロナウイルス予防の観点より『第32回大阪府理学療法学術大会』は2020年9月13日にWEB(オンライン)で開催されました。例年とは違う形での発表となりますが、企業企画特別講演として録画配信した内容を掲載いたします。

義足のリハビリテーションガイドラインについて

<橋本>
まずは、私から義足のリハビリテーションのガイドラインについてお話しいたします。
 日本語によるガイドラインは、日本理学療法士協会の『理学療法診療ガイドライン第1版(2011) 14.下肢切断』が唯一だと言われています。
本日は2017年にアメリカの国防総省退役軍人庁(VA/DoD)が出した下肢切断のリハビリテーションガイドラインをベースにお話していきます。


Clinical practice guideline for rehabilitation of individuals with lower limb amputation(2017)

 このガイドラインでは、義足部品の選択に関するエビデンスとして「電子制御膝は転倒リスクを減少させ満足度を最大化する」と明言されています。しかし、ソケットデザインや足部の種類、インターフェイスであるシリコンライナーなどの義足部品については、いまだ十分なエビデンスがないとされています。
その点で、臨床に携わる関係者は苦労されていると思いますが、切断の患者様が来られたらリハビリを進めていかないとなりません。
まずは急性期病棟から転院後、義足を製作するまでの期間に、リハビリで留意する点を長倉先生からご説明いただきます。


<長倉>

本日メインでお話するのは高齢の下肢切断者についてですが、若い低活動の方に対しても同じようなことが言えるので、高齢もしくは低活動のレベルの方の義足トレーニングの話として聞いていただければと思います。

切断者を取り巻く現状 ~問題点と課題~

まずは、下肢切断者を取り巻く環境が以前とは大きく変わってきている点について説明します。

▶入院期間の短縮・医療スタッフの経験不足
 切断の理由として、かつては外傷性が非常に多かったのですが、現在は血管原性切断者、特に高齢の方が増えてきています。入院期間も短くなり、医療スタッフが切断患者をケアする経験が以前より不足しています。
 昔は切断者が入院されていることも多く、リハスタッフが経験を積める機会も豊富でしたが、いまは断続的に入院されることが多いため、どうじても経験が不足しがちなのです。
 
▶切断者の重篤化・高齢切断者と切断者の高齢化
 血管原性で切断される方は併存疾患があり重篤化していることも多く高齢の方も多いため、リハビリテーションがなかなか進められない場合が少なくありません。
 
▶義足の機能向上に伴う複雑化と価格の上昇
 最近の義足は高機能化、複雑化が進んでおり機能を使いこなすことが難しかったり、それだけ高価な義足を本当に使っていいのかと躊躇されたりするケースも目立ちます。
 
▶メディア情報と一般的な現場とのギャップ
 今年、東京パラリンピックが開催に伴い、スターアスリートと共に競技用義足がメディアに取り上げられたことでしょう。しかし、義足を履いたら誰でも同じように運動能力が上がるとの勘違いや、リハビリ現場でのギャップも生まれていたように思います。
 
▶切断者のニーズの多様化
 義足を履いてただ歩けるようになればいいという方ばかりではありません。より活動度の高いレクリエーション活動に参加できるようになりたいと希望される方も多いので、リハビリテーションの方法も変わってきています。

義足での立位と歩行練習の目的

教科書に書かれているような義足トレーニングの主な目的としては以下などが挙げられます。

・移動動作の獲得
・身体機能の維持ー向上
・精神面に関する効果
・断端痛、幻肢痛の軽減
・断端浮腫の軽減と成熟の促進
 
下肢切断者の義足歩行訓練の主な目標

①杖なしに歩行できる
②長い距離を歩く
③安全に歩く
 
しかし、高齢切断者の義足歩行の目標は、必ずしもその3つを達成しなければならないわけではありません。

高齢切断者の義足歩行の目標

高齢切断者の義足歩行の目標は、以下3点が目標達成のポイントになるため、義足パーツ選びも若い切断者の方とはおのずと異なります。

・歩行介助物を利用して(杖や歩行器など)
・屋内や家の近所を(散歩がてら歩けるくらいに)
・安全に歩く

 
義足装着練習の導入に向けてのポイント

1.体幹や健側下肢の運動能力のチェック
高齢者の場合、片足でケンケンできるような運動能力を持たれていることは少ないものです。しかし、歩行時に義足に不具合が起きた場合など健側で立位を取るために、健側下肢による片側立位保持ができるかどうかは、義足訓練の前に必ず確認します。

2.義足は全体重を支えることで機能を発揮する
義足は本人の全体重を支えることで本来の機能が発揮できる設計になっています。大腿切断であれば坐骨で、下腿切断では膝蓋腱で、体重をしっかりと支えられなければいけません。そのために義足装着前に十分なトレーニングが必要です。
 
3.高齢下肢切断者において義足は立位補助具、もうひとつの杖という位置づけ
高齢下肢切断者にとって義足は歩行目的よりも、まずは立位をするための補助具です。杖を使いながら、もう1本の杖としての役割を果たすものと考えましょう。

装着前のトレーニング~切断側の荷重練習~


1 下腿切断
下腿切断の場合、切断した足の膝蓋腱にしっかりと体重を乗せられない状態で義足をはいても、体重支持ができません。
体重計に断端を乗せて全体重がかけられるようになる、訓練用のプラットホームマットに膝立ちしてセラピストの支えなしに自立や歩行できるようになる、といった荷重の練習を義足装着前にまず行います。


2 大腿切断
大腿切断の場合は、昇降式のベッドに断端坐骨を乗せてしっかりと体重をかけたり、移動したりする練習を十分に行います。


 

高齢者に利用しやすい大腿義足とは

高齢者の義足ソケット
差し込み式が適用しやすいと従来は考えられていません。しかし、近年はライナーの性能が飛躍的にアップしています。
高齢者の膝継手
高齢者には固定膝を選択することが多かったのですが、最近は固定と遊動の両機能をうまく使い分けられるものも増えてきています。
高齢者の足部
軽くて履きやすいSACH足がメインだったが、近頃は軽量のエネルギー蓄積型足部が主流です。
高齢者のその他義足パーツ
吸着式ソケットの場合は、パラシュート素材の誘導帯などを使って履いていましたが、最近は高齢者でも装着しやすいライナーが出てきています。

高齢者に利用しやすい下腿義足とは





従来、下腿義足の場合は差し込み式や大腿コルセットやカフベルトで懸垂することが多かったのですが、最近はライナーが主流です。
足部は大腿義足と同じく、軽量のエネルギー蓄積型足部が主流です。

 



義足パーツについて詳しくは橋本さんにご説明お願いします。
 
<橋本>
まずは、活動度に寄る義足部品の分類についてお話する必要があります。
 

義足を分類する活動度「Kレベル」について

アメリカの健康保険では義足部品はKレベルという活動レベルで、義足の適用がほぼできないレベル0から高活動のレベル4までの5段階に分けられています。いわゆる高齢者、活動度がそれほど高くない方はKレベル1あるいは2が対象になることがほとんどです。
 
本日はこの2つのレベル分類を主に義足部品を見ていきましょう。


Kレベル1
義足は主に室内で使い、歩行器や杖も使用。外出時には車椅子に乗り、移乗時やごくごく短距離の歩行は義足でする方というイメージです。
 
Kレベル2
室内であれば何か支えがあれば義足で歩けるし、ごく近所であれば杖を突いて歩ける。歩行スピードは一定というのがK2レベルの特徴です。

高齢者の義足部品選定のポイント

ライナー
近年、シリコーンライナーの使用が増えています。自己装着ができるかどうかというのが大きなポイントです。
 
シリコーンライナーの3つの利点

シリコーンライナーの利点
①支持性の向上
②断端の保護
③良好な懸垂

高齢の方については②と③が特に大きな利点です。

シリコーンライナーにもいろいろな種類がありますが、キャッチピンを付けるロッキングライナー、ピンを付けないクッションライナーの2種類が主です。
ロッキングライナーを使う場合に大切なことは、断端の長軸にピンが一致することで、装着の上手下手が影響するため、充分に習熟していただく必要があります。

足部
かかとが硬いと荷重応答期で膝折れしやすくなります。安定性が重視されるので、比較的柔らかいものを使って膝折れを防止します。

K1ーK2 向けの足部では、膝折れを防止するようなかかとの設定がなされています。
かかとの部分がウレタンや薄いカーボンになっているような低活動のK1・K2レベル向けの足部を選びます。
 

膝継手
安定性がポイントになるので、固定膝やリンク膝、固定/遊動切り替え膝を選択することが多いですね。

固定と遊動のどちらの膝継手がよいか判断しかねる方の場合は、固定/遊動が切り替えできるものを使って様子を見て、遊動の適応があるかどうかを探ることができます。
 
遊動の膝継手は、短軸よりリンク膝の方が膝折れしにくいと一般的に言われています。完全伸展した状態で荷重することが難しい方の場合、荷重ブレーキ機能をもつものが選択肢の一つになります。 
 
義足パーツの話はこれぐらいにして長倉先生にお伺いしたいのですが、実際に組み立てた義足を装着して、どのような訓練・練習を行っていけば効果的なのでしょうか?




 

効果的な義足の訓練、練習について

ベッドサイドトレーニング
<長倉>
義足を製作されたら義足を装着した状態で、ベッドサイドや運動療法室でのストレッチや筋力増強トレーニングを行っていくのが効果的です。

 ライナーを装着した状態だとソケットを介して、非常に効果的な負荷がかけられます。最近は筋力トレーニングなどいろんなアクティビティ、練習を行う場合は義足を履いたままする場合が多いですね。



義足装着練習(左右の体重移動)

まずは義足側にしっかり体重移動
立位訓練時にまずしっかりやってほしいのは、義足側へしっかり体重をかけること。義足装着訓練の初期には外転歩行が起こりやすいのですが、それでは十分な体重が義足の上に乗せられません。義足の外側に体重をかけて体幹側屈の状態を作ります。義足の真上に体重心をもっていき、そこから少し義足の外側に倒していくような感じです。そこから健側を少し上げると、義足にしっかりと体重がかかります。
 
支えは必ず患測の手で持つ
しかし、健側の手で平行棒や支持物を持つために、体重心が義足側にいかないことがよく起こります。患側の手で支えを持つと、体重心を義足の真上から外側に乗せられます。
 
その後、健側を外転させると体が健側の方に戻りそうになりますが、そこで戻ってしまわないようにバランスを取ります。義足を中心軸にやじろべぇ状態を作っていくわけです。

その状態でバランスをコントロールできるようにします。見た目上、体幹側屈(ラテラルベンディング)が起こっているように見えるのですが、ここからのリカバリーがどれだけできるかが前額面でのバランス能力の獲得につながります。


 
義足歩行における義足の基本的な操作
続いて矢状面での動きを見ていきましょう。倒立振り子と二重振り子(いわゆる自由振り子)の動きをどうコントロールするかで、歩行はほとんど決まります。
 
まず理解してほしいのは、義足歩行が健常者のものと大きく違うのは床に足が着いている時しかコントロールできないということです。床から義足が離れた瞬間から膝継手などその他の部分のコントロールになってきます。義足が床に着いている時にいかにコントロールするかが、異常歩行を正常歩行にしていく最大のポイントです。
 
倒立振り子の動きを見ていきます。かかとを接地している状態でローディングレスポンスをしていき、ここから足底接地(フットフラット)、立脚中期(ミッドスタンス)になりますね。このミッドスタンスまではある程度もっていけるけれども、その後の踵接地(ヒールオフ)、足趾離地(トゥオフ)の際に股関節の伸展が十分とれないという方が多いのです。
 
歩行は右足、左足と交互に出して行いますが、義足側は比較的前に出るものの健側側がなかなか前に出ないという現象がよく起こります。倒立振り子の動きを取るのに、股関節の伸展が十分にできていないことがその原因の一つです。
 
また、二重振り子運動時に遊脚相を決める重要なポイントであるつま先が床から離れる瞬間(プレスイング)、そこで膝が一番曲がっている状態になっていることも大切です。膝が曲がった状態のまま足を振り出すときれいな二重振り子になりますから、倒立振り子を行った後、床に足部を付けたまま膝を曲げていく動作を学習していくことが重要です。
 
まず、義足膝継手が屈曲した状態で足を地面につけます。そして、膝継手を進展させて体重を全部かけ、健側を前に振り出し、プレスイングで膝継手を最大限に屈曲させる、というところまでを一連の動作としておこなっていきます。
 
できれば両手で平行棒を持たずに、患側だけの支持もしくは両手を話した状態でこの動作ができるようになると、きれいな倒立振り子の動きが再現できるようになります。
 
膝折れ防止機能の付いた義足ですと、膝屈曲位で足を着けたら膝が折れてしまいますので、膝屈曲位から股関節伸展に持っていけるようトレーニングしていきます。
 
この画像では私は前方から少し患者さんを押していますね。それに少し逆らってちゃんと前に足を出していけるように指導しています。




シリコーンライナーについて 


                       


高齢切断者がシリコーンライナーを使用する場合についてお話していきます。
 
シリコーンライナーは非常に柔らかい素材でできており、装着後の衝撃も緩衝してくれるので着け心地がいいものです。しかし、完全に裏返した状態からクルクルとロールアップして装着するのは、高齢者にとっては難しい場合もあります。


 

装着時の不具合
 
うまく着けないと、ライナー内部に空気だまりができて汗がたまってしまいます。それが立脚相の時にぐっと上がってきて、ライナーが脱げたり回転してしまったりすることがあるので、空気だまりができないように装着できるように練習を重ねます。
 
ケースによっては、装着時の不具合で断端に循環障害が起きてしまうことがあります。シリコーンライナー装着時に空気だまりを作ってしまったために、皮膚が角質化して、触るとすごく硬い硬結の状態が起こることがあるのです。硬結は、立脚相でしっかり体重支持ができない場合にもよく起こりますね。

写真をご覧ください。
軟部組織をぐっとつぶしてしまった状態でライナーを着けてしまうと、擦過傷や水ぶくれができてしまうことがあります。
ちゃんと皮膚を伸ばした状態でライナーを装着することが大切です。
 


断端マッサージ
 
硬結や循環障害が起こってしまっている場合は断端マッサージをした方がいいですね。断端の縫合部が動きにくいですから、そこをしっかり動かしてあげましょう。浸出液が出なくなったら、断端はどんどんマッサージしていくようにしてください。

高齢者が義足訓練時や日常生活時に気をつけるポイント

<長倉>
 高齢者に限らず、低活動の方に対して義足歩行というのは非常に負荷の高い運動です。下腿切断で通常の1.5倍から2倍くらい、大腿切断で2倍から2.5倍くらいの運動強度になります。ですから、高齢の方にそこまで運動強度の高い動作をしてもいいのかという話になりがちですね。
 しかし運動強度がかなり高くなるのは、初期の義足訓練の頃の話なんですね。訓練を重ねて、義足に慣れたりバランスがよくなったりして歩行能力が高くなると、そこまで高い運動強度にはならないんです。
 ですから、義足訓練初期の段階でいかに運動強度をコントロールするかが非常に重要なポイントだと私は考えています。
 
<橋本>
 なるほど。義足訓練の初期という最初の山を乗り越えると、その後の実生活でその人なりの生活に役立つ道具として義足を使いこなすことができる可能性が開けてくるということですね。
 
<長倉>
 義足は生活の中で使うものですから、役割自体がおのずと決まってきますよね。たとえばトイレに行く、お風呂に行くなど、義足はいろんなシーンで使われますが、場面ごとに歩行介助物も手すりなのか杖なのか、それとも車椅子を使うのかといろんなパターンがあると思います。その方の状態に合わせて使い分けをするべきだと考えています。

デジタル化により義肢リハビリテーションのさらなる発展を

<橋本>
 最近は義足の方の症例が少なくなり、経験を積むのが難しくなっていると先ほどおっしゃっていましたが、回復期の先生方が義足のリハビリテーションについてスキルアップするために何かアドバイスはありますか。
 
<長倉>
 コロナ禍時代においては本学会に限らず、研修会などでオンライン化が今後さらに進むと思います。義肢装具製作所と、オンラインでカンファレンスや症例検討会などもできるようになるのではないでしょうか。
 一人で、一つの病院内だけで悩むのではなく、いろんな方に声掛けをしてオンラインによる横のつながりをもっていくことが重要になるでしょう。
 
<橋本>
 長倉先生がおっしゃるように、われわれ義肢装具製作所、義肢装具士の立場から横のつながりを広げて、各病院の先生方のサポートを行っていきたいと思っています。
 
 今回のようなオンラインセミナーの開催の他にも、部品の紹介やデモ品のご提示もオンラインで可能です。さまざまな方法で義肢リハビリテーションのバックアップを行い、クライアント様とともに進んでいければと思います。
 
 本日のセミナーが何かしらのご参考になれば幸いです。

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