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パシフィックニュース

サポートブックを通して私たちが伝えたいこと

車椅子/姿勢保持

サポートブックを通して私たちが伝えたいこと

サポートブックを通して私たちが伝えたいこと

沖縄県立鏡ヶ丘特別支援学校 浦添分校
新城真佐江(元浦添分校職員)

2020-09-15

はじめに

  肢体不自由特別支援学校としての教員の専門性とは

  左の図は、新職員向けの校内研修で使用するスライドの一部です。
   この図は教員の基盤の上に特別支援教育の専門性、さらにその上
  に肢体不自由教育の専門性があることを示しています。

  本校のように障害の重い児童生徒が在籍する学校は、学ぶべきこ
  とが多岐にわたり、研修の意義を再確認するために使用していま
  す。 

 
  


沖縄県立鏡ヶ丘特別支援学校 浦添分校の紹介


沖縄本島の南部に位置し、医療型障害児入所施設及び療養介護事業の入所者を対象にした肢体不自由特別支援学校です。全児童生徒(小学部・中学部・高等部)を合わせて9名、指導にあたる教員も10名と、とても小さな特別支援学校です。〈令和2年、3月時点〉

浦添分校の特色
全員が身体、認知面に障害の重い児童生徒で占めており、日常生活の上では全面介助と医療的ケアや配慮すべき方が多く在籍しています。

隣接する沖縄療育園と常に連携を取りながら学校生活を送っています。また、学齢経過者の方の在籍も半分近く占めており、戦後の混乱で教育を受けられなかった方達(56歳から過去には76歳の方も)の教育も行っています。児童から年配の方まで幅広い年齢層が特徴で、アットホームな雰囲気の学校です。

今回は、「サポートブック」を通して、浦添分校のこれまでの取り組みを紹介します。

そもそもどうして サポートブック?

サポートブックの概要
平成27年度から校内研修の一環として試行的に導入し、現在まで毎年実施しています。もとは他県の特別支援学校が行っていたものを独自にアレンジしたものです。内容はその人が楽しく・心地よくいろいろな活動に参加できるために必要と思われる支援の方法、配慮事項等、各児童・生徒の情報を視覚的にわかりやすく示したファイルです。教員間をはじめ、保護者、関係機関で共有しやすく、引き継ぎや移行支援としても役立ちます。

教育内容の引き継ぎ・継続性の課題あり

1)毎年かなりの職員の入れ替わりがある!

沖縄県は他県に比べ、臨時採用の教員の割合が多く、その採用は基本的に1年が多いです。通常の転勤移動を合わせると、毎年半分近く
の職員の入れ替えがあります。こうした中、職員が入れ替わっても、これまでの教育内容をどのように引き継いで、継続できるかが学校の課題でした。

(2)実は教師は姿勢や車椅子に弱い?
実は、児童生徒の普段の姿勢づくりや活動時の姿勢保持、車椅子シーティング等はちょっと苦手、自信が無い、と言う人も多いはず。はじめて肢体不自由学校に赴任した教員はもちろんのこと、肢体不自由の教育に携わったことのある教員でさえです。それは、児童生徒に対して、姿勢が及ぼす影響や教育的効果についての正しい知識と職員の成功体験が乏しいのが原因ではないかと考えました。


(3)実は一番必要とされる情報がない?
これまでの個人ファイルには、教育支援計画や指導計画、通知表等の資料は綴られていても、実は毎日必要な支援の方法は殆ど残されていないことに気付きました。

そこでサポートブックの登場です。

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今担任していて苦労した事、あるいは困っていることはないですか?
 →次にその児童・生徒と活動する(生活する)人も、同じような状況に直面するときがきっときます。

  例えば側彎や脱臼がある生徒をどう支援すれば本人が心地よくすごせるの?とか・・・ でも触れる
  のも痛そうで怖い?とか・・・

○困っていたことや、できなかったことがうまくできたときに、先生はどうしていますか?
 →ホッとしている。満足した。色々工夫したから、自分だからできた?本当にそれだけで良いの
  でしょうか?

○担任している児童・生徒を人に預けるとき、または次年度引き継ぐときに「これをみたら少しは(かなり)
   参考になると思うのでよろしく!」とすぐに人に渡せる資料はありますか?

 →資料といっても文字だけで、内容を読み取るのに苦労をするようなのはダメです。
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※当時(6年前)は上記のような困り感を解決するためにスタートしました。
以前、人伝に貰った他県の特別支援学校のサポートブックの資料をもとに、みんなで試行錯誤しながら進めて
きたものです。

サポートブックの中身はこんな感じ

車椅子について
車椅子の名称、各パーツの目的、操作方法、シーティング等
 移 乗
生徒にとって安全な移乗方法、職員の負担の無い移乗方法等
 姿 勢
様々な姿勢のポジショニング、排痰方法、クッション類の説明等
 摂 食
摂食時の姿勢、食事形態、使用する道具
 コミュニケーション
興味関心、苦手な事、意思表示の方法、気持ちの切り替え支援方法等

その他にもおむつ換え編(イラスト) 活動編、発作対応編 など、児童生徒の実態によって項目やページ数も異なります。
サポートブックの掲示方法
必要な時に、誰でもすぐに手に取って確かめられるようにと、最終的にサポートブックをラミネートして全員分を教室壁にかけて使用しています。

サポートブックをこんなふうに活用しています・・・1年間の流れ 

      1 児童生徒の引き継ぎに・・・個別3月末
          
サポートブックをもとに引き継ぎ
       
年度末に完成した最新のサポートブックをもとに新・旧担任で児童
      
生徒の引き継ぎを行います。(実際は個人ファイルや校務分掌等諸々あり。)


  2 全児童生徒の共通理解・・・全員4月
        前年度のサポートブックを主に
  左の写真は4月最初に新職員を含めた全職員で児童生徒の共通理解を
  行った様子です。校内ランにあるサポートブックをテレビに映して主
  に新担任が説明します。足りないと思われる部分は養護教諭や旧職員
  が補足します。 
  以前(6年前)は文書資料で行っていたので、新職員が理解しにくい
  といった声があがりました。

  
     3 サポートブックの作成に向けて・・・全員 5月
           今年度の新しいサポートブックづくりの作成についての確認
  前担任が残してくれたサポートブックをある程度試した後、説明会を
  行います。今年度の担任が1年かけて新しいサポートブックを作成
  するためです。
  新職員にサポートブックに込められた意味と各項目について説明しま
  す。ほとんど支援方法が変わらない部分と、生徒の実態の変化に伴い
  修正、追加、変更等がある箇所を確認します。

  作成に当たっては、自立活動部やチームに必ず相談することにしてい
  ます。作成を通して特に姿勢に関して理解を深める狙いがあります。

 

4 サポートブックの活用と修正、変更・・・年間通して(全員4月~翌年2月)

下の写真は、年度初めに実際の授業でサポートブックを活用している様子です。新職員だけでなく、本校に数年
勤務する先生も、その児童に特化した的確な情報は、後輩に伝え教える意味でもとてもありがたいのです。


 
  5 関係機関とのカンファレンス・・・年間 6月~12月まで

           隣接する療育園との共通理解
  月に1回の医教連絡会では、行事の調整の他にも「児童生徒の共通理解コ
  ーナー」を設け、月に1~2名の生徒のカンファレンスを行います。そこ
  で教育支援計画とサポートブックの資料、動画等を使用します。

  サポートブックは2週間前に前もって療育園のスタッフ(PT、ST、介護
  士、看護師、医者等)に回覧して貰い、意見やアドバイス等の書き込みを
  お願いしています。その書き込みを元に修正を経て当日使用します。


  6 療育園へ贈呈・・・年度末 3月
         サポートブックを沖縄療育園育成課に贈呈
  年度最後の医教連絡会では、学校側から沖縄療育園に本校の全員分のサポ
  ートブックを1冊にまとめて手渡します。
  これまでの学校教育活動をはじめ、サポートブック作成にも協力して頂い
  た沖縄療育園は本校にとって大切な関係機関です。感謝の気持ちを伝えな
  がら、サポートブックが現在および卒業後の施設の暮らしの中で、児童生
  徒が自分らしく過ごせるヒントになればという想いが込められています。

外部専門機関との連携・・・年間を通して随時

《外部専門家による研修》                 【障害の重い児童生徒の自発的な動きを引き出す姿勢作り】
                                                                                    
平成30年度 拡大校内研修 / 浦和校プレイルーム

右の写真は、拡大校内研修を開いた時の様子です。
県内の肢体不自由特別支援学校にも広く呼びかけ
ました。理論研修後、実技形式を通して姿勢につ
いて皆で話し合いました。

【講師】
〇下元 佳子 氏
(ナチュラルハートフルケアネットワーク代表)
〇杉本 昌子 氏
(パシフィックサプライ株式会社)


【概要・キーワード】
・サポートのあるべき姿               

・姿勢の考え方                 
・姿勢のアセスメント
・24時間で考える
  
 
         
           

※それ以外にも杉本さんには、姿勢に
いての理論研修をはじめラッサルクッシ
ョン
を使っての姿勢保持について、児童
生徒個別によるアドバイス、相談等、幅
広くサポートして下さいました。

   

考 察・・・成果と課題

 1 サポートブックから広がる様々な効果
  
(1) 最初は引継ぎのツール
  教員の多忙さが年々増す中、特に年度末、年度初めは目まぐるしい慌ただし
  い中での引き継ぎ、そしてすぐに新学期がはじまるといった状態です。
  昔のように経験豊富な教師が後輩教師にじっくり教えるという時間の余裕 
  も、残念ながら少なくなりつつあります。ただ、どんなときでも教員は児
  童生徒の立場に立ち、その子にとって何が大切か、何かできないかという
  想いは常に持っています。

  だからこそ、年度はじめに新職員や児童生徒の不安や混乱、とまどい、試行
  錯誤の期間、それらを解消するために、だれもが安心して年度初めをスター
  トするためにサポートブックが導入されたのは前述のとおりです。

      
 

 
  もし、引継ぎが上手くいかないと、これまで出来ていたこともうまく引き出せ
      ないなど、生徒の成長に影響を及ぼすのではないかと考えました。上記の図が
     そのイメージ図です。

     実際、サポートブックを導入してからは、在職年数を重ねた私たち(筆者)から
     見ても、年度初めの全体の混乱が見られなくなり、毎年スムーズな引継ぎがで
     きているように感じます。新職員からも毎年好意的な意見が多く寄せられてい
     ます。 

(2) それ以外のメリット
 サポートブックは、個人の引き継ぎ以外にも、校内職員がどの生徒に対し
 ても適切な対応ができるよう、全体としての共通理解も同時に意図してい
 ました。ところが、年度を重ねる毎に様々なメリットがあることに気づき
 ました。新職員からは、前担任が残してくれたサポートブックを通して、
 特に苦手意識が強かった姿勢や車椅子、シーティング、ポジショニング等
 に関して具体的な質問が多くなりました。

 もちろん外部専門家(パシフィックサプライさんをはじめ多くの専門家)と
 の研修を重ねたおかげでもありますが、サポートブックを個人で責任を持
 つことにより、積極的に子ども達の姿勢や車椅子等に向き合うようになり
 ました。こうなるとさらに相乗効果が生まれ、学校のメンターとして、
 職員も直接のアドバイスや指導が容易になったほかにも、関係機関との中
 継指導等がさらに効果的に行うことができるようになりました。

 他にもサポートブックの回覧を通して療育園の主治医が絶賛するなど、学
 校の教育活動に対しての理解も深まりました。


2 外部専門家の効果的な活用のためには

特別支援学校の多くは、教員の専門性向上のために障害種に関係する外部の専門家に研修を依頼する、直接生徒を診てもらいアドバイスを貰うなどの機会を設けています。

ところがせっかく良い研修を受けても、机上のもので終わってしまい、生徒に還元できていないという方も多いのではないでしょうか。

それを解消するためには、専門家と教員の一方通行の関係ではなく、長いスパンで循環できる関係作りを構築することが大切です。研修で得た知識や技術をさらに学校職員が理解し、生徒に実践できるよう中継する職員が必要になってきます。それは学校の課題や職員の性格を理解しているメンター的な職員の存在です。

今回サポートブックをツールにして「引き継ぎ」と「姿勢」等の改善が図られ、児童生徒に還元することができました。それはパシフィックサプライさんのような専門家と効果的な関係構築ができたことが大きいと思います。
メンター職員は学校が良い方向に変わること(それは生徒が良い方向に変わること)や職員の専門性の向上に喜び、あるいはやりがいを感じないと続かないでしょう。

新学習指導要領において、カリキュラム・マネジメントが重要視されています。分校においても、今後も組織として教員の専門性を育て、教育活動そのものを改善していくためにも現在のメンター的役割の方々のアイディアと取組みを期待します。

※カリキュラム・マネジメントについて
「答申」は学校全体の在り方について、「各学校が編成する教育課程を軸に、教育活動や学校経営などの全体的な在り方をどのように改善していくかが重要になる」と述べている。この学校教育の全体的な改善・充実に当たり、好循環を生み出す方策として「カリキュラム・マネジメント」導入がある。




【参考文献】
学習指導要領改訂のポイント 特別支援学校編 明治図書
国立特別支援教育総合研究所 H22年度特別支援学校(肢体不自由)教員の専門性モデル



♦PDF版 「サポートブックを通して私たちが伝えたいこと」