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パシフィックニュース

特集 スポーツ義足② 下肢切断者の支援に必要なこと

義肢

特集 スポーツ義足② 下肢切断者の支援に必要なこと

特集 スポーツ義足② 下肢切断者の支援に必要なこと

帝京科学大学 
理学療法学科 准教授 豊田 輝

2020-05-01

下肢切断者のスポーツ参加とスポーツ用義足の課題について

下肢切断者のスポーツ参加には、身体的効果(動的バランス能力やSF36のphysical functioningやphysical roleが有意に良好)や精神的効果(QOLが有意に向上)が報告1,2)されています。
 
本邦においても「東京2020オリンピック・パラリンピック」が開催されることもあり、下肢切断者のスポーツレクリエーションや競技レベルでの大会など参加機会が増えたことでこれらの効果を感じている方々も多いと思います。しかしながら、義足給付における公的支援の範囲は日常生活に必要な常用義足のみであり、スポーツ用義足は自己負担となっています。例えば、競技レベルで使用する高性能な板バネは、約20~30万円と高価であるため走行を望む全ての下肢切断者が気軽に高性能なパーツを試せる状況ではありません。
 
現在、この課題を解決する支援体制の構築が急務とも言えます。このような状況において、「ランニング・チャレンジ(以下、ランチャレ)」は、低価格の参加費で高性能なパーツを試用できるばかりか、下肢切断者が新たな社会との接点を見出す機会ともなり得るほか、自らの健康づくりの推進やQOLを向上させる非常に良い機会であると感じています。
 
下肢切断者の能力は切断者自身が決める
また、このランチャレは、下肢切断者を支援する理学療法士(以下、PT)の中でも特にその経験が少ないPTの“固定観念を解き放つ”非常に良い機会であると感じています。私は、現在、大学教員としてPTを養成する立場ですが、医療現場でPTとして下肢切断者を支援していた頃に大切にしていたことをこのランチャレで再認識しました。それは、「下肢切断者の能力は切断者自身が決める」ということです。勿論、下肢切断者の切断原因や身体機能、合併症、社会的環境や経済状況など様々な要因により、その能力には上限が生じます。しかしながら、下肢切断者のリハビリテーションでは、適切な支援を受けた場合には、かなりの確率で切断者が望むレベルの能力を獲得し、高いQOLを得ていると思います。
 
一方、十分ではない支援を受けた場合は、下肢切断者自身が望むレベルやPTなどの専門職が想定したレベルよりも低い状況となっていることも少なくありません。つまり,PTなどの下肢切断者を支援する専門職は、切断者の希望するレベルが自分の予測よりも高いと感じた時こそ、自己の固定観念に囚われ過ぎず、切断者の希望レベルに到達するためにどのような支援が必要となるのかについて、その専門性を活かして直向きに考え抜くことが、自らの専門性を磨くことに繋がると考えます。
 
下肢切断者の支援に関わるPTなどの専門職でご興味がある方は、是非、ランチャレに参加してみてください。専門職として大きな発見があると思います。私は、下肢切断者の義足装着下での新しい動作能力獲得過程では、上手く出来ないことの指摘や説明のみに固執せず、下肢切断者の疾病や身体機能に対する評価結果を基として、如何したら出来るのようになるのかを考え、自らの専門性を活かして支援することができれば、必ず成果が得られると考えています(義足支援には必ず正解があります)。この適切な支援過程は、ランチャレで走れるようになる下肢切断者を見れば一目瞭然です。下肢切断者のより良い支援体制の強化のため、ランチャレで下肢切断者と時間を共にすることを強くお勧めします。

その他、各種パラスポーツに関する情報については、公財)日本障がい者スポーツ協会のホームページ3)内の「協会情報の資料室」において各競技の詳細な説明がなされているため、切断者のスポーツ参加に興味がある方はご閲覧ください。

主催:パシフィックサプライ㈱
   ランニングチャレンジ in  東京

今、下肢切断者に対する支援においてPTなどの専門職が再考すべき点について

わが国における切断者の全国的な疫学調査は、2006年の厚生労働省(以下、厚労省)が実施した「身体障害児・者実態調査」以来、行われていません。この報告4)によると,2001~2006年の5年間に下肢切断者は4.9万人から6万人に増加(22.4%増加)しています。また、厚労省による国民健康・栄養調査(2016)5)によると、「糖尿病が強く疑われる」成人の患者数は、2012年の前回調査より50万人増え、2016年時点で既に1000万人を超えていると推計されています。
 
この糖尿病患者数の増加に伴い、下肢切断者は増加していることが推測されますが、義足の給付件数6)は、徐々に減少(2004年度:6,725件,2012年度:5,506件,2016年度:5,036件)しています。梅澤ら7)は、この下肢切断者が増加しながらも逆に義足給付件数が減少している要因について、➀義足装着適応とならない切断者が増加している。➁義足装着で生活自立に至らない切断者が増加しているのではないかと2つの仮説を報告しています。本稿では、この背景に何があるのか、あくまでも推測の域を脱しませんが、超高齢社会を迎え、今、下肢切断者の支援において理学療法士などの専門職が再考すべき点ついて私見を述べたいと思います。
 
我が国における2018年平均寿命は、「男性:81.25歳・女性:87.32歳」と男女ともに過去最高(過去最高の更新は、男性が7年連続・女性が6年連続)を更新しました。この超高齢社会により、社会保障費のうち医療給付費は、2012年度の35.1兆円から、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる2025年には54.0兆円に拡大すると厚労省は推計しています。また、介護給付金(19.8兆円)と合わせると社会保障給付費全体の49.5%を占め、年金(40.6%)を超える規模になるとも推計されています。これらの状況を打破するためにも政府は、「健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)の延伸」を国策として掲げ、社会保障制度改革の医療・介護分野における柱として、「地域包括ケアシステム(住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に提供しようとするもの)」を推進しています。

下肢切断者が“自らのことを自分で行う”ための適切な支援
下肢切断者を対象としてこの“地域包括ケアシステム”を考えると、障害者総合支援法に基づく更生用義足の支給が「公助」であり、医療保険による治療用義足の作製や介護保険サービス提供が「共助」、そして、自らのことを切断者自身が行うことが「自助」にあたります。そこで、上述した下肢切断者が増加しながらも義足給付件数が減少している要因として、私は、この地域包括ケアシステムにおいて2つの課題があると推測しています。
 
1つ目は、「公助・共助」が十分に機能していない可能性を危惧しています。換言すると、切断者自身や家族が義足使用を望み、治療用義足や更生用義足の適応であるにも関わらず、医療従事者の何らかのバイアスによりその機会が失われている可能性が一部にあるのではないかと推測します。これに対して各専門職が再考すべき点としては、適切な下肢切断者の支援が行えるようにPTなどの医療従事者を対象とした教育が急務であると考えます。
 
2つ目は、下肢切断者が“自らのことを自分で行う”ための適切な支援が、適切な時期に提供されていないのではないかと推測します。つまり、義足を作製後、自ら義足を使用して日常生活を自立するレベルまでの適切な支援を行うべきPTが、十分にその役割を全う出来ていないことを危惧しています。これに対して各専門職が再考すべき点としては、「共助」で義足を作製後、「自助」を促す適切な支援ができるPTの育成が急務であると考えます。梅澤らの調査8)によると、荒川区町屋地区における義足非装着者は「要介護2」以上である割合が85%を占めていたが、義足作製後、適切な支援を受けた多くの切断者の要介護度は、「要介護1もしくは要支援」に改善したと報告しています。また、これら介護認定調査は、義足非装着時の動作を想定して行われることから、義足装着による動作練習の成果として、非切断下肢の残存能力が改善した結果であるとも述べています。この成果が意味するところは、義足作製後、PTによる適切な支援により介護保険料の削減に繋がる可能性があり、個人のQOLのみならず社会保障費の適正化においても中長期的な利益を生む手段として「義足」の価値が示された事例であると考えます。
 
「義足」は、下肢切断者にとって必要不可欠な「足」であることは言うまでもありません。この「足」の創出には、今後も義足パーツの発展や各専門職による支援技術の向上も必要不可欠です。下肢切断者を支援する者が「温故知新」の精神を忘れず、全ては“下肢切断者の希望を現実のものにする”をスローガンとして日々精進しながら、支援技術を伝承させることでこの支援の輪が更に広がると信じております。
 
最後に、本稿が切断者を支援する全ての方々にとって、自らの支援方法について再考する機会となれば幸いです。




     

【文献】

1)Yazicioglu K, Taskaynatan MA, Guzelkucuk U, Tugcu I:Effect of playing football(soccer)on balance, strength, and quality of life in unilateral below-knee amputees. Am J Phys Med Rehabil 86:800-805, 2007;
2)Sporner ML, Fitzgerald SG, Dicianno BE, Collins D, Teodorski E, Pasquina PF, Cooper RA:Psychosocial impact of participation in the National Veterans Wheelchair Games and Winter Sports Clinic. Disabil Rehabil 31:410-418, 2009
3)公財)日本障がい者スポーツ協会(協会情報・資料室)
https://www.jsad.or.jp/about/referenceroom.html

4)厚生労働省 平成18年身体障害児・者実態調査結果
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/shintai/06/dl/01.pdf

5)厚生労働省 平成28年国民健康・栄養調査報告
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/dl/h28-houkoku-05.pdf
6)厚生労働省福祉行政報告例:身体障害者・児の基準の補装具購入件数,購入金額,修理件数及び修理金額,補装具の種類別(https://www.e-stat.go.jp/
7)梅澤慎吾,岩下航大:高齢者リハの問題点-「義足を着けない」「歩けない」原因の再考―,日本義肢装具学会誌32,No.2,102-1109,2016
8)梅澤慎吾:地域包括ケアシステムと補装具-地域の高齢下肢切断者と義足について―,日本義肢装具学会誌34,No.2,119-124,2018