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こうすればうまくいく!大腿義足リハビリテーション ―後編―
リハビリテーション
義肢
後編:義足を履き続けるためのリハビリと断端ケア、生活支援について
JR東京総合病院 リハビリテーション科
主任医長 田中洋平
2026-10-01
前編では、大腿義足のソケット、懸垂方法、パーツ選択、義足適応の考え方について紹介しました。
後編となる本記事では、講義後半の内容から、大腿義足リハビリテーションの具体的な進め方、MPK(コンピュータ制御膝継手)の活用、作業療法、断端トラブルへの対応、義足を履き続けるための管理と生活支援についてお届けします。
大腿義足リハビリテーションは4つのフェーズで進める

田中先生は、大腿義足リハビリテーションの流れを整理するため、施設で作成しているプロトコルを紹介しました。プロトコルは、縦軸に週数、横軸に義足、理学療法、作業療法を並べ、それぞれの時期に何を行うかをまとめたものです。
大きく分けると、次の4つのフェーズで構成されています。
- シリコーンライナーを装着するフェーズ
- キャストソケット義足を装着するフェーズ
- チェックソケット義足を装着するフェーズ
- ラミネートソケット、つまり仮義足を装着するフェーズ

重要なのは、断端の状態を整えることが、その後の義足装着や歩行訓練の土台になるという点です。
断端末への荷重練習は行わない
義足装着前の理学療法について、田中先生は注意点も挙げました。一部の施設では、義足装着前に断端末へ荷重をかける練習を行うことがあるそうですが、田中先生はその必要性を明確に否定されました。
大腿義足では、荷重を受ける部位が断端末ではないため、断端末へ荷重をかける練習は、これから行う義足訓練のメリットにはなりません。むしろ痛みや皮膚損傷につながる可能性があります。
平行棒内から段階的に。いきなり外へ出ない
JR東京総合病院では、シリコーンライナー装着フェーズの後に、キャストソケット義足を義肢装具士が製作します。膝継手は固定膝継手から始めて、遊動膝継手に移行します。キャストソケットが作れない場合は、コネクトTFのような調整可能なソケットを導入して練習やリハビリを進めることもできます。
キャストソケット義足を装着した後、理学療法ではまず平行棒内での立位訓練から始めます。田中先生は、義足側に体重をかける際のポイントとして、体幹を側屈させないことを挙げられました。
(※右側の動画が流れる)
その後、平行棒内でのステップ練習、平行棒内歩行へと段階的に進みます。田中先生は、1週ごとに目標を決めて進めていくことが大切だとお話されました。
平行棒外に出るのは、4週目あたりが目安です。安全に段階を踏んで進めることが、結果的に安定した義足歩行につながります。
ソケットが合わなくなった時は、体重変化にも目を向ける
チェックソケットの話に移る前に、田中先生は「ワンポイントアドバイス」として、ソケット適合に関する注意点を紹介されました。義足の装着を開始してすぐに、ソケットが合わなくなることがあります。その原因としてまず考えられるのは、断端の形状変化です。ただし、田中先生はそこで立ち止まり、「体重の変化にも目を向けてほしい」と話されました。
義足が合わない時、どうしても義足そのものやソケットの問題に目が向きます。しかし、患者さんの体重が変化していれば、断端のボリュームも変わり、ライナーやソケットの適合に影響します。
この点は、医師や理学療法士だけでなく、義肢装具士にとっても確認しておきたい視点として紹介されました。
ワンポイントアドバイス
チェックソケットの話に移る前に・・・原因は、断端の形状変化にあります。
でも、なぜ断端の形状が大きく変化したのでしょうか?
断端の成熟ですか?
ちょっと待ってください。体重は大きく変化してないですか?
体重は2~3Kg変わるとライナーのサイズも変更が必要になります。ソケットも新しい物が必要になることが多くなります。
義足の方にばかり目を向けるのではなく、患者さんの体重の変化にも目を向けて体重の維持が必要であることを伝えましょう!
膝継手・足部も段階的に活動レベルを上げていく
膝継手についても、田中先生は段階的に試していくことを重視されています。
最初はしばらく固定膝継手を使用し、その後、多軸の遊動膝継手へ移行します。さらにチェックソケットの段階で、バウンシング機構のある膝継手を試し、可能な方には単軸のイールディング膝継手も検討します。
足部についても同様に、徐々に活動レベルの高いものへと移行していきます。ただし、すべての患者さんに高活動なパーツが必要なわけではありません。高活動なパーツが不要な方には、中活動者レベルの足部を処方し、高活動な方にのみ、より高活動者向けの足部を試していくという考え方です。
チェックソケット以降は、応用的な動作へ
チェックソケットの段階に入ると、理学療法はより応用的な内容へ進みます。坂道や階段など、日常生活で必要となる動作も積極的に行い、歩行量も増やしていきます。作業療法では、ADL(日常生活動作)、IADL(手段的日常生活動作)の訓練を進めていきます。
最終段階となるラミネートソケットは、仮義足に相当します。JR東京総合病院では、このラミネートソケットを退院の1週間前に完成させ、退院を迎える流れにしています。
MPKは、状況に応じて膝継手の動きを制御する
続いて、田中先生はMPKについて解説しました。MPKとは、油圧シリンダーの弁開度や、磁気粘性流体の抵抗をコンピュータで制御する膝継手です。内部には多くのセンサーが組み込まれており、歩行中のさまざまな状況に応じて、膝継手の動きを調整します。

MPKのメリットとして、田中先生は転倒リスクの低下、歩行速度や活動性の向上、幸福感やQALY(Quality-Adjusted Life Year:質調整生存年)の改善などを紹介されました。
講義中には、MPKで可能となる動きの例として、階段を交互に下りる場面や、義足側に体重をかけた時に膝継手が粘る様子も動画で示されました。
イールディング機構なしの大腿義足では、基本的に階段を下りる時に足を交互に出せません。しかし、MPKを用いることで、動画のように交互に下りられるようになります。また、通常の膝継手では、義足側に体重をかけた際に膝が抜け、膝折れ転倒してしまうリスクがあります。MPKでは、その場面で膝継手が粘るように働き、不意な膝折れを防ぎます。

(※左側の階段を下りる様子の動画が流れる)
(※右側の義足に体重をかける様子の動画も流れる)
MPKも活動レベルに応じて選択する
MPKの適応も、活動レベルに応じて考えます。田中先生は、活動レベルが低い方には低活動者向けのMPK、活動レベルが高めの方にはその方に合った機種を選ぶとよいと説明しました。
MPKを選択する場合のリハビリテーションの流れには、大きく2つのパターンがあります。
1つ目は、退院時にはコンピュータ制御ではない膝継手の仮義足で退院し、その後、本義足のタイミングでMPKへ移行するパターンです。入院中にバウンシング膝継手またはイールディング膝継手を試したのちに、MPKをある程度試して、機種を決めておきます。そして、試していたNMPK(コンピュータ非制御の膝継手)で一旦退院します。その後、入院中に試していたMPKを労災から本義足として支給してもらうというのが流れになります。
2つ目は、最初の仮義足の段階からMPKを使用するパターンです。 多軸遊動膝継手でしっかり随意制御の仕方を練習したら、ケネボなどのMPKを履き始めてリハビリ練習を進め、そのまま仮義足として処方して退院するという流れになります。
どちらのパターンでも、田中先生は、まず固定膝継手で始め、その後、3週目あたりで多軸遊動膝継手を試して随意制御の扱い方をしっかり学んでもらうというプロセスを重視されています。
また、田中先生は、MPKの処方について、必ずしも保険者から認められるとは限らない点にも注意を促しました。
講義の中で、仮義足でMPKを処方した症例について、動画で紹介されました。

(※左右とも動画が流れる)
3R106では歩行自立とならなかったが、MPKケネボに変更したことで歩行自立となった。
作業療法では、生活動作を具体的に練習する
リハビリテーションでは、理学療法だけでなく、作業療法も重要です。田中先生は、作業療法で生活動作を確認し、入院中にしっかり練習しておく必要があると話されました。たとえば、床への座り込みや、床からの立ち上がりです。
講義では、義足の膝を曲げ、膝継手を床につけ、両膝立ちの姿勢を経て立ち上がる方法が紹介されました。

そのほか、義足ありで裸足のまま部屋の中を歩く練習、義足なしで部屋の中を移動する練習、歩行車に食器を載せて移動する練習なども行います。家の中で歩行車が必要な高齢の大腿切断の方もおられるため、実際の生活を想定した練習が欠かせません。
講義では、右に大腿義足、左に下腿義足を装着した高齢の方が、食事の準備を練習している様子も紹介されました。

義足歩行ができることと、義足を使って生活できることは、同じではありません。作業療法では、その間をつなぐための訓練が行われます。
義足装着時の皮膚トラブル
義足を履き続けるうえで、皮膚トラブルは避けて通れない課題です。田中先生は、まず断端の湿疹について、接触皮膚炎であることが多く、主に軟膏で対処すると説明しました。ただし、原因がはっきりしない湿疹や、ひどい湿疹については、抱え込まず皮膚科に相談することが大切と話されました。
陰圧充血現象については、断端が吸われることで起こります。原因は大きく2つあり、ライナーの装着方法が悪い場合と、ライナーがきつい場合です。いずれも、ライナーを履いた時に断端末とライナーの間に隙間ができ、その部分が吸引されることで陰圧が生じます。

断端トラブルの原因と対応方法
断端トラブルが起きた時には、まずソケットがゆるいのか、きついのかを確認します。義足の適合が悪い場合は、断端袋の枚数で調整します。それでも対応できない場合は、ソケットの作り直しが必要になります。
次にライナーを正しい手順で装着できているか確認します。特に断端の末端とライナーの間に隙間ができていないかが重要です。ライナーの履き方が悪い場合は、正しい装着方法を指導する必要があります。
断端袋の調整も、最終的には患者さん自身ができるようになる必要があります。義足を履き続けるためには、医療者が調整するだけでなく、患者さん自身が日々の変化に対応できることが大切です。
さらに、角度(アライメント)が適切かどうかも確認します。アライメント不良がある場合は、義肢装具士による調整が必要です。
義足を履き続けるための義足の管理と断端のケア
ライナーは毎日洗い、大切に扱う
義足を履き続けるためには、義足の管理と断端のケアも欠かせません。田中先生は、ライナーのケアについて具体的に説明されました。皮脂を落とすためには、液体ソープを使うことが必要です。また、ライナーは大切に扱う必要があります。ライナーフックやライナースタンドで保管するのが理想で、裏返したまま置いたり、丸めたりすると、ライナーが早く傷んでしまいます。


断端のケアでは、トラブルをできるだけ起こさないために保湿を行います。特に糖尿病の方は汗をかきにくくなるため、保湿剤を塗る習慣をつけることが重要です。さらに、断端の汗をこまめに拭くことも大切です。

日々の小さな自己管理がトラブルの予防につながり、義足を履き続ける力になります。
介護保険サービスを活用し、生活を支える
義足を履き続けるためには、医療機関でのリハビリだけでなく、退院後の生活環境を整えることも重要です。田中先生は、高齢者、糖尿病、ASO(閉塞性動脈硬化症)の方などでは、介護保険サービスを活用した方がよい場合が多いと説明されました。
住環境の整備としては、手すり、ベッド、シャワーチェア、バスボード、浴室内手すりなどが挙げられました。

また、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、訪問介護、訪問入浴介護、通所介護、訪問看護なども、その方の状態に応じて導入します。
加齢に伴い、必要な懸垂方法やパーツは変わっていく
講義の後半では、大腿義足のピットフォールとして、加齢に伴う懸垂方法やパーツ変更についても紹介されました。ある患者さんは、53歳から義足を使用していました。73歳時点では、遊動膝継手で歩けなくなってきたため、コンピューター膝継手であるケネボ(Kenevo)に変更し、歩行が改善したといいます。

しばらく順調でしたが、4年後、77歳になった時に、「ソケットが回る」「歩けなくなってきた」と訴えるようになりました。
歩容を確認すると、後ろにひっくり返りそうな状態でした。原因として考えられたのは、股関節の屈曲拘縮の進行です。股関節を伸展できなくなっていることが、歩行の不安定さにつながっていました。

そこで、スライドアダプターを入れてアライメントを調整しました。ソケットに対して膝継手の位置を後方にずらすことで、ある程度安定して歩けるようになりました。

ただ、田中先生はそこで考えるのを止めませんでした。
その後、固定膝継手を試したところ、患者さん自身も「こちらの方がよい」と感じ、固定膝継手に変更しました。
また、「ソケットが回る」という訴えに対しては、ランヤード懸垂に加えてシレジアバンド(腰ベルト)を追加し、懸垂を補助して安定性を高めました。

この症例からわかるのは、義足は一度処方したら終わりではないということです。
事前質問への応答:PTBソケットのインターフェイス選択
最後に、事前質問として寄せられた下腿義足に関する質問にも回答がありました。質問は、「下腿義足でPTBソケットを処方する場合、インターフェイスは何を選択するか」というものです。この質問は、PTBカフベルト懸垂の義足を想定していると思われますが、田中先生は、第一選択として、シリコーン製のクッションライナーを挙げました。ソフトインサートよりもシリコーンライナーの方が肌に優しいので、まずはシリコーン製のクッションライナーを第一選択にします。ただし、断端末が圧迫刺激に過敏な場合には、より柔らかい熱可塑性エラストマー、たとえばコポリマーライナーなどを選択する方法もあります。また、ライナーの材質が肌に合わない場合や、ライナー内の汗によって湿疹ができる場合には、断端袋とソフトインサートのタイプを検討することもあると説明しました。
義足を履き続けるために、医療者が見ておきたいこと
今回のセミナーでは、大腿義足リハビリテーションを進めるうえで、義足の構造やパーツ選択だけでなく、リハビリテーションの段階、断端トラブル、自己管理、住環境、介護保険サービス、加齢による身体機能の変化まで、幅広い視点が示されました。
田中先生の講義で一貫していたのは、義足を「作る」ことではなく、患者さんが退院後の生活の中で「使い続ける」ことを見据える姿勢です。
大腿義足リハビリテーションでは、歩行能力だけを見るのではなく、装着できるか、管理できるか、生活動作につながるか、環境は整っているか、身体機能の変化に応じて見直せているかといったことを確認する必要があります。
義足を履いて歩けるようになること。そして、その義足を日々の暮らしの中で使い続けられること。その両方を支えるために、多職種が連携しながら患者さんの生活を見ていくことが求められます。
田中先生は最後に、自身の著書「下肢切断術と義足リハビリテーション」にも今回の内容の多くがまとめられていることを紹介し、講義を締めくくりました。
田中先生からも良い製品との評価をいただいております。
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