パシフィックニュース
こうすればうまくいく!大腿義足リハビリテーション
リハビリテーション
義肢
前編:大腿義足リハビリの前提知識と、義足選択の考え方
JR東京総合病院 リハビリテーション科
主任医長 田中洋平
2026-09-01
JR東京総合病院リハビリテーション科の田中洋平先生を講師に迎え、オンラインセミナー「こうすればうまくいく!大腿義足リハビリテーション」が開催されました。
田中先生は、日々多くの義足症例に関わりながら、学会や研修会などでも積極的に講演を行っていらっしゃいます。今回のセミナーでは、医師の立場から、大腿義足の基礎知識、義足リハビリテーションの進め方、義足を履き続けるために必要な管理や生活支援まで、臨床で押さえておきたいポイントを幅広く紹介していただきました。
前編では、①大腿義足のソケット、②懸垂方法、③パーツ選択、④義足適応の考え方についてお届けします。
大腿義足を理解するために、まず押さえたい3つの要素
講義の冒頭で田中先生が取り上げたのは、大腿義足の基礎知識であるソケット、懸垂方法、パーツについてです。大腿義足を理解するうえで、ソケット、懸垂方法、パーツ選択は基本となる要素です。義足が身体にどのように適合し、どのように固定され、どのように歩行を支えるのか。実際の臨床で押さえておくべきポイントを、順を追って解説していただきました。
①ソケットの種類:四辺形ソケットと坐骨収納型ソケット(IRC)
大腿義足のソケットにはさまざまな種類がありますが、田中先生はまず押さえておきたいものとして「四辺形ソケット」と「坐骨収納型ソケット(IRC)」を挙げられました。
四辺形ソケットは、上から覗き込むと横長の四角い形状をしています。坐骨がソケットの壁に乗るような構造です。
一方、IRCは、上から見ると縦長の形状をしています。坐骨はソケットの縁の壁に包み込まれ、収納されているような構造になります。

JR東京総合病院では、断端包帯やスタンプシュリンカー、シリコーンライナーによる断端形成を経て、早期からキャストライトを用いたキャストソケット義足を製作されています。キャストソケット義足の段階では、まず四辺形ソケットの形状で義肢装具士に製作してもらうといいます。その理由について、田中先生は次のように説明されました。
その後、チェックソケット義足へ移行した段階で、IRCを製作していく流れが紹介されました。
②懸垂方法は4つ。固定のされ方に違いがある
続いて、田中先生は大腿義足の懸垂方法について解説されました。
大腿義足の懸垂方法には、大きく次の4つがあります。
- 「ピンロック懸垂」と「ランヤード(ひも、ストラップ)を使った懸垂」は、断端の遠位で固定するタイプの懸垂方法です。
- 「吸着(吸引)懸垂」は断端全体がソケットに吸着され、断端全体で固定されます。
- 「懸垂ベルトによる懸垂」は、肩吊り帯や腰バンドを使って吊るす断端近位での固定方法です。
田中先生は、ベルトを締めれば締めるほど、断端は股関節が屈曲する方向に曲がりやすくなると説明。そのうえで、ベルトを締めすぎてしまう前に、まずはソケットの適合を見直す必要があるとご回答されていました。
ピンロック懸垂:安心感がある一方、装着方法に注意が必要

ピンロック懸垂では、断端にピン式のライナーを装着します。ピンが連結されていれば義足が外れることがないため、使用者にとって安心感があります。また、断端袋を併用することで、断端のボリューム変化が激しい時期にも対応しやすくなります。
一方で、注意点もあります。
(陰圧充血現象については後編で詳しく取り上げます)
さらに、立位で体重をかけられないと装着しにくい点も、注意が必要です。
ランヤード懸垂:座位でも装着しやすく、断端変化にも対応しやすい

ランヤード懸垂は、ストラップを使用する遠位固定タイプの懸垂方法です。講義では、ライナーにストラップを取り付けて、ソケットの底面の穴に通して折り返して止める方法が紹介されました。
吸着・吸引懸垂:一体感はあるが、断端の変化に弱い

吸着・吸引懸垂では、シールインライナーを使うことが多いといいます。断端にシールインライナーを装着し、その状態でソケット内に断端を入れると、バルブから空気が脱気され、ライナーがソケット内で吸着されます。
この方法は、ソケットと断端の一体化に優れ、義足の装着感やコントロール性が良好です。ただし、断端のボリューム変化には弱く、義足が脱げてしまうリスクがあります。また、立って義足に体重をかけられないと装着できません。
田中先生は、懸垂方法としては理想的であっても、低活動者には不向きな場合があると説明されました。患者さんの状態や時期に合わせて選択することが重要になります。
「ベルト懸垂」は最終手段として持っておきたい引き出し

大腿義足のベルト懸垂には、肩吊り帯や腰バンド、TESベルト(下腿義足のスリーブのようなもの)などを用いる方法があります。田中先生は、臨床では頻繁に使う方法ではないとしたうえで、シリコーンライナーを使えない場合など、いつもの方法でどうしてもうまくいかない時に使うことがあるとお話しされました。

講義では、断端が短い症例に対して、ピンロック懸垂だけでは懸垂力が十分でなかったため、TESベルトを追加し、安定性を高めて歩けるようになった例も紹介されました。
③パーツ選択で押さえたい「Kレベル」
次に田中先生は、義足パーツの選択について解説されました。
義足パーツは、厚生労働省の「完成用部品価格表」に部品名が列挙されています。しかし、その数は非常に多く、何を選べばよいのか迷うことも少なくありません。そこで押さえておきたい基礎知識として紹介されたのが「Kレベル」です。
対象となる患者さんの活動レベルを、K0からK4までの5段階で分けることができます。
- K0=寝たきり
- K1=屋内のみの歩行や移乗目的での義足利用を含む超低活動
- K2=制限を伴う屋外歩行
- K3=制限を伴わない屋外歩行
- K4=活発な小児・成人、アスリートなどの高活動者・超高活動者
足部パーツも膝継手も、活動レベルに応じて選択していきます。

JR東京総合病院では、実際に使用して質の良さが確認できている足部パーツをKレベルの活動度順に整理しています。Kレベルに合わせて処方していますが、例えばかかとの高さを変えたいというニーズがあるような方には、かかとの高さを変えられる足部を選択するようにしています。

膝継手は、高齢者など活動レベルが低い方では、固定膝継手が適応になります。活動レベルが上がるにつれて、多軸の遊動膝継手や、単軸の遊動膝継手などが選択肢に入ります。また、コンピュータ制御膝継手であるMPKも近年では選択肢に入りますが、処方には注意を要するため、詳しくは後半で取り上げると紹介されました。
シリコーンライナーは断端の形状に合わせて選ぶ

シリコーンライナーの選び方については、断端の形状に合わせることが重要になります。田中先生は、大腿切断の断端の形状は、成熟が進むと円柱形から円錐形に変化していくと説明されました。
このあたりは義肢装具士や理学療法士が断端の周径を計測して選択していくことになるといいます。
写真から義足を読み解く

講義では、2枚の大腿義足の写真をもとに、ここまでの知識を使って義足の構成を読み解く場面もありました。田中先生は、ソケット、懸垂方法、ターンテーブル、膝継手、足部の順に確認していきます。
左の若者、右の高齢者ともにIRCソケットを装着していました。懸垂方法は、左がピンロック懸垂、右がランヤード懸垂。ボタンを押すと義足の向きを回転でき、靴を履くときなどに便利なターンテーブルはどちらにも使用。膝継手は、左の高活動者にはイールディング機構付きの単軸遊動膝継手、右の高齢者には固定膝継手が選択されています。足部についても、それぞれの活動レベルに応じたものが用いられていました。
義足を見る際には、どのパーツが使われているかだけでなく、なぜその患者さんにその構成が選ばれているのかを考えることが大切です。
大腿義足の適応をどう考えるか

続いて田中先生は、大腿義足の適応について解説されました。大腿義足は、まず当然ながら「義足を装着して元気に歩きたい」「屋外歩行レベルが目指せそう」という方に適応されます。さらに、「屋外では車椅子でも、自宅の中だけでも義足を装着して歩きたい、歩けそう」という方も適応になります。
一方で、判断に迷いやすいのが、歩行目的ではなく、車椅子とベッド・トイレ間の移乗をしやすくするために義足を使うケースです。
田中先生は、移乗目的での義足活用について、下腿切断では適応になる場合がある一方、大腿切断では慎重に考える必要があると述べられました。
義足の適応にならないケースとしては、切断術後の創部が治っていない、全身状態が安定していない、リハビリテーションに取り組む意欲がない、といった状態が挙げられました。
さらに田中先生は、糖尿病の治療を続ける気がない場合、認知機能の低下により身の回りのことが一人でできない場合、全盲の方などについては、適応が難しいと考えていると話されました。
その理由は、入院中に義足を使えても、退院後に使い続けられない可能性が高いためです。

適応に迷う場合は、キャストソケット義足やコネクトTF義足を用意して、実際に履いてもらい、いけそうであれば義足のリハビリを試してみるといった方法で、判断ができればといいます。退院後の生活の中で義足を使い続けられるかどうか。その視点から、適応やリハビリテーションの進め方を考える必要があります。
大腿義足リハビリテーションで行う5つのこと
講義前半の最後に、田中先生は大腿義足リハビリテーションで行うことを5つに整理されました。
義足リハビリテーションは、義足を装着して歩行練習をするだけではありません。断端の状態を整え、身体機能を高め、自己管理を身につけ、生活動作へつなげ、退院後の暮らしを見据えて準備する包括的なプロセスです。田中先生は、その全体像を示されました。
訓練用仮義足を作るタイミングも重要
義足リハビリテーションの流れについて、田中先生は、切断術後から退院、本義足への移行までの大まかな道筋を紹介されました。切断術は急性期病院で行われ、ソフトドレッシングも急性期病院から始まります。創部が治ったら回復期のリハビリテーション施設に転院し、シリコーンライナーの装着、キャストソケット義足、チェックソケット義足、訓練用仮義足へと進んでいきます。
田中先生は、入院期間の目安として、下腿義足では2〜3か月、大腿義足では3〜4か月が理想だと話されました。そのうえで、訓練用仮義足を作るタイミングについて、次のように説明されています。
退院後は、半年から1年ほどして本義足へ移行していく流れになります。
後編では、リハビリの進め方と義足を履き続けるための支援へ
前編では、大腿義足のソケット、懸垂方法、パーツ選択、義足適応の考え方を中心に紹介しました。今回の講義では、単に「どの義足を選ぶか」だけでなく、患者さんの活動レベル、断端の状態、装着のしやすさ、退院後の生活までを含めて判断することの大切さが繰り返し示されました。
後編では、大腿義足リハビリテーションプロトコル、MPKの活用、作業療法、断端トラブルへの対応、義足を履き続けるための管理と生活支援についてお届けします。
関連情報
© 2017 Pacific Supply Co.,Ltd.
コンテンツの無断使用・転載を禁じます。
対応ブラウザ : Internet Explorer 10以上 、FireFox,Chrome最新版 、iOS 10以上・Android 4.4以上標準ブラウザ















