検索

Close

検索したいキーワードを入力してサイト内検索をする

パシフィックニュース

電動義手i-limb  新たな日常生活の拡がり

義肢

電動義手i-limb  新たな日常生活の拡がり

電動義手i-limb  新たな日常生活の拡がり

「遊び感覚で」インタビュー中、何度も出てきたキーワード。筋電義手i-limbは、動作の可能性を広げるだけでなく、コミュニケーションやチャレンジのきっかけに。

パシフィックサプライ株式会社  事業開発本部

2017-11-16

まるで手品を見るように彼の手元から目が離せなくなる。 リズムよく響くモーター音とともに、機械でできた5本の指の形を次々と変えられるのは、タネや仕掛けがあるからではない。子どもがついに手に入れたおもちゃで遊ぶような気持ちで、機能を次々と試しまくったおかげでうまく動かせるようになったと笑うのは、筋電義手i-limb(アイリム)カンタム(以下、i-limb)ユーザーの森口哲志さん(48歳)だ。 i-limbが厚生労働省に完成用部品として認可を受けるために必要なフィールドテストにご協力くださり、今春の新規認可後には真っ先に購入された、日本のi-limbユーザーの先駆者である。

腕の喪失感を越えて、新しい出会いへ

腕の切断に初めは落ち込んでいたけどふっきれた

印刷業に従事していた2010年8月に、仕事中の事故で右前腕を切断してしまいました。
入院している間に、復職する予定だった会社が倒産してしまって職を失ったこともあり、受傷後しばらくは、すっかり落ち込んでいました。

 

でも、初めて作ってもらった義手がとても良いものだったんです。
それで開き直れて、せっかく手に入れた【人とは違うモノ(義手)】を隠すのではなく、かっこいいものとして見せていく方向に変われたんですよ。

 

ずたずたの断端に合わせた義手の製作は難しいと思っていたのに、ぴったりと合わせて作ってくれた、川村義肢の黒石さんに今までずっとお世話になっていて、本当に感謝しています。

 

使わなくなった能動義手を、遊びでカスタマイズして怒られたりしたこともありますが…。

 

最高のおもちゃとの出会い。i-limbにすぐに夢中に

i-limbに出会う前は別メーカーの筋電義手を使っていて、2本の指でものをつかむことはできました。ところが、i-limbは5本の指を複雑なパターンで動かせる。初めて装着した時から、夢中になりました。

 

バッテリーもずっと長くもつし、あれやってみよう!これもできるかな?と、おもちゃ感覚でこれまでやりたくてもできなかった動作を次々と試すうちに、自然と上手く使えるようになりました。

 

宿題みたいに「やらされること」は、上手くできないとストレスになるけど、「もしできたら面白いな」という遊び心から入ると、あれこれ試すこと自体が楽しくなります。

 

今は、お箸をi-limbで使えるように練習中です。ちょっと箸の固定方法を工夫したら、もう少しでできそうなんですよ。外国人がi-limbでお箸を使う動画を見て悔しくて!僕もできるはずだと楽しんで練習しています。
 

でも何でもi-limbでやらなければいけないとも思っていないので、ストレスがたまることは左手でしています。

「i-limbは、最高のおもちゃです!」と語る森口さん

今までに使用した義手

ランチタイム

できることが一つずつ増えるたび、気持ちの余裕が大きくなって

いびつな形のものも、神経を集中させなくても義手が自然と立体的につかんでくれるので、楽ちんです。包丁の柄も、形にそって5指がそれぞれ添えられるので、ぐらつかずとても安定感があります。一人暮らしが長くて、もともと一通りの家事はできましたが、i-limbだと同じように上手くこなせます。

 

料理の他にも、皿洗い、裁縫、服をたたむこと、シーツの張替えなど両手で行う動作が楽になりました。ソケットがぴったりで、重さの負担もあまり感じなくて、もう腕の一部みたいです。

 

何かやってと頼まれたとき、これまでなら「無理だろう」と最初から諦めていたことも「ちょっとやってみようかな」とチャレンジできるようになりました。力の調整が難しかった車の配線をつなぐような細かい作業も、今では楽に行えます。

 

最初の1週間くらいは、奥さんや娘たちも「i-limbってすごい!」と物珍しく見ていましたが、すぐに当たり前になってしまいました。
 

昔はできないことを優しく手伝ってくれたのに、僕が何でもできるようになったので、今は知らん顔して手伝ってくれないんです。逆にあれこれと頼まれるようになりました。

 

義手だから、と特別に気を遣われすぎないほうが、僕は楽ですね。何もできないだろうという思い込みで、あれもこれもやったるわと世話を焼かれると、できることまで奪われてしまわれたようで「俺、いる?」って思ってしまいます。
 

まずはやってみる。それで、どうしてもできないことだけ「ちょっとすいません」と頼んで解決できる関係がいいですね。

洗濯物をたたむ

義手がコミュニケーションのきっかけ、強みになる

僕にとって、義手は隠すものではなく目立たせるもの

今は展示会用に作られた真っ白なソケットですが、色をつけたりLEDを光らせたり派手にして、自分らしくカスタマイズしていきたいです。

 

今日は、これまで作った義手を持ってきました。自分の好みでカスタマイズしたものもあります。装飾用義手は結局、日常生活で使うことはほとんどありませんでしたね。

 

隠さずに見て欲しい!知って欲しい!

義足や義手を隠したいという人も多いけれど、僕は義手を一人でも多くの人に見て知ってほしいんです。

 

夏場は半袖なので義手が余計に目立ちますね。機械的なi-limbの方が知らない人からも声をかけられやすいみたいです。話のつかみは筋電義手でばっちり。好奇心を示してもらえると、コミュニケーションのきっかけになります。

 

その点、子どもはとても素直で「おっちゃん!その手なに??」ときらきらした目で近寄ってきてくれたりして。
 

でも、義手について触れてはいけないと考えている人もまだまだいますよ。
「あのおっちゃんの手、すごい!見て!」と僕を凝視するお孫さんに「あかん!見たらあかん!」って制止するおばあちゃんに「ちょっと待ってくださいよ。『見たらあかん』って言われるのが一番傷つくんです。」ってつい返しちゃったこともあります。

 

大人が義手に偏見を持たず、切断した手の代わりに着ける義手っていうものがあるんだよと、ちゃんと子どもに教えてあげてほしいですね。

手話サイン I Love You

お気に入りのカフェで

SNSで発信!筋電義手のオモシロさをもっと広めたい

i-limbの写真や動画を撮っていろいろとインスタ(Instagram)にアップしています。義足に比べると、義手で投稿している人はほとんどいないんです。思いついてふとやってみたら、意外とできたっていうことも多いですね。

 

発信したいのはどうでもいいネタ、オモシロいこと。
「i-limbだとこんなこともできるんじゃない?」と新たな発想もどんどん生まれるんです。

 

日本では、まだまだ筋電義手は一般的にもほとんど知られていません。最近の筋電義手の進化やi-limbについてもっと知ってもらって、必要とする人に普及してほしいと思います。そのためにも、取扱説明書や訓練のようなお堅いものではなく、ユーザーの僕ならではの筋電義手の楽しさを広げていきたいですね。

 

先日も、ある学会でモデルをした時、インスタで知り合った子が僕に会いに来てくれてすごくうれしかった。インスタ投稿を続けてきて、本当によかったと思えました。義肢ユーザーからの発信が増えて、コミュニティの輪がもっと広がればいいのになと思います。

 

私のインスタブログを通じて知り合った義手の当事者やご家族から、筋電義手の使用について相談をいただくこともあります。専門家ではなく当事者の僕だからこそ、聞きたいと思ってくれるのかもしれません。

 

動画を見ると、筋電義手を動かすのは簡単そうに見えるけど、実は僕も初めての筋電義手の訓練当初は、うまく動かせずにすごくイライラして、義手を外して投げつけたくなることもありました。

 

筋電義手のユーザーの口コミなど多くないと思うので、装着訓練のために練習しておいた方がいいことなど、僕の経験をお伝えすることで役に立ちたいと思っています。

靴紐を結ぶ

腕時計を着ける

出会いが次々と広がっていく

広がる出会い、つながる人と人

i-limbの装着モデルをしたことで、他の義肢モデルの方とも知り合うことができました。人生を楽しむという今の僕の発想や行動に大きな影響を与えてくれた、松本功さんもその一人です。

 

義足ランナーとして楽しんでいる姿をかっこよく発信されている功さんが、SNSやブログを始めるきっかけとなりました。去年知り合ってから、一緒に行動させてもらうことが増えた、僕の師匠のような存在です。

 

松本さん以外にも、SNS上やリアルで義肢ユーザーの友達ができていきました。義肢販売店やメーカーからは出てこない当事者ユーザー同士のリアルな口コミ、情報交換はすごくありがたいです。

 

外に出ていくことで、どんどんと人とのつながりが連鎖します。切断者スポーツチーム【ブレンジャーズ】にも数カ月前から参加するようになりました。

 

ブレンジャーズの切断者はみんな義足で、義手は僕が初めて。僕は走るのは苦手ですが、子どもみたいにメンバーとすぐに深く仲良くなれました。義手の人も気兼ねなく参加してほしいです。

 

この間、障害者を海に連れていくという活動をしている団体「サーフクラシック」の中谷さんとも縁がつながり、ブレンジャーズの仲間とサーフィンしに行って、道中も含めてめちゃめちゃ楽しかったです。

 

手足がないからこそ経験できることを見つけて人生を楽しみたい

 

くよくよしていても、失った手足はもう戻ってきません。今は切断したから使えている義手や、できた経験、出会えた人に感謝しています。

 

自然体で生きていて、来るものは拒まずなので、お誘いが来たらどんどん乗っかります。広く浅くやってみて、これは!というものに出会えたらいいですね。

 

新しいことにチャレンジしたり、SNSで発信を続けたり、仲間とあちこち遊びにいくことで義肢ユーザーの露出が増えて、障害者がいろんな場所にいることが世間の人の当たり前になっていくと良いなと思います。

サーフクラシックの仲間と

ブレンジャーズ in 森之宮キューブ

ブレンジャーズ (松本功さまinstagramより)

心は少年!笑顔の連鎖が広がります

<インタビュアー後記>

 

お話をうかがっている最中も微笑を終始浮かべていた森口さん。
最後に尋ねた、いま一番やりたいことの答えは「オートバイに乗ること!」

 

「筋電義手をバイクに直接取り付けて、アクセルとブレーキを操作するシステムが、僕の頭の中では完全にできているんだけど誰も取り合ってくれないんですよね~(笑)。とりあえず周りにバイクに乗りたいと言い回ってます。」と、いたずらな笑顔を見せながら教えてくださいました。

 

本当にオートバイに乗る姿が目に浮かんできて、こんな好奇心旺盛なところが、自然と森口さんに縁がつながっていく魅力なのだと改めて感じました。

 

                                                                                           (取材)スイッチ・オン 平野亜樹


関連情報